流す順番は計算で決める。生成AIに直接聞く仕事ではない
多品種少量の現場では、機種を流す順番を変えるだけで、その日の段取りの回数が減ります。順番を決めるのは計算の仕事です。生成AIに直接聞いた3回は、いちばん良い順番に届きませんでした。AIの役目は、その計算をするプログラムを書くことです。
当方の担当者が前職で挑んで、計算が終わらずに諦めた問題を、あらためて解き直しました。当時あきらめた規模でも、いまは手元のパソコンで1秒かからずに良い順番が出ます。
なぜ流す順番で段取りの回数が変わるのか
次の機種でも同じ部品を使うなら、その部品はセットし直さなくて済むからです。
プリント基板の製造を例にします。プリント基板とは、パソコンやスマートフォン、制御盤の中に入っている板のことです。IC(多数の回路を1つにまとめた部品)や抵抗、コンデンサといった電子部品が、たくさん載っています。
部品を載せる前の板は生基板と呼ばれます。表面には電流の通り道が引かれていて、これをパターンと言います。電子部品と生基板は、はんだ付けによって接合されます。
ほとんどの部品は、実装機(部品を決まった位置へ自動で載せる機械)が載せます。実装機では機種ごとに必要な部品が決まっていて、レーンに部品をセットしてから流します。
次の機種でも同じ部品を使うなら、その部品は載せたままで構いません。似た部品を使う機種を続けて流せば、外してつける回数がそれだけ減ります。

同じ構造は、基板以外の現場にもあります。塗装の色替え、印刷の版替え、食品ラインのアレルゲン洗浄も、前に何をやったかで次の準備の量が変わります。この記事は基板の例で書きますが、順番で準備が変わる仕事なら考え方は同じです。
では、順番を変えるとどれだけ変わるのか。実際の数字は会社ごとに違うので、仮の工場を1つ作って測りました。決めたのは次の4つです。
| 決めたこと | 値 | 意味 |
|---|---|---|
| 部品の種類 | 60種類 | この工場が扱う部品の全体 |
| 1機種が使う部品 | 20点 | 1つの機種を作るのに要る部品の数 |
| 実装機のレーン | 24本 | 同時にセットしておける部品の数 |
| 1日に流す機種 | 9種類 | その日の計画に並ぶ機種の数 |
この記事では、部品を1点セットする作業を1回と数えます。最初の機種は必要な部品を全部セットするので、その20点も数に入ります。
読み方はこうです。載せる場所が24本あって、1機種が20点を使います。
つまり、次の機種のために空けておける余りは4本しかありません。 機種ごとの部品の組み合わせはばらばらに決めたので、続けて流す2機種が何点を共通で使うかは、並べる順番で変わります。
機種ごとに使う20点の一覧と、その部品がどの機種と共通なのかは、仮の工場の部品表に全部載せました。
この条件で、届いた順に流した場合と、いちばん良い順番で流した場合を比べました。
同じ設備、同じ機種、同じ部品のまま、16回ぶん減ります。受注順のまま流していた分が、そのまま余計な作業になっていたということです。
この数字は仮の工場のものなので、そのまま自社に当てはめないでください。実物との違いが3つあります。
- 部品の幅を考えていない。ここでは1部品1レーンで数えていますが、実際は幅の広い部品が2本以上を占めます
- 大きな部品を分けていない。実際は、レーンに載らない大きな部品を別の場所にセットするので、レーンの取り合いとは別に数えます
- 納期と材料の到着を入れていない。実際はこの2つが順番を縛ります
実際の回数は、部品の幅・大きな部品の扱い・納期を入れて計算し直さないと出ません。ただし、順番を変えると回数が変わるという構造そのものは、条件を足しても変わりません。
全部試せば一番良い順番は分かるのか
機種が少なければ分かります。増えると終わりません。
全部の並びを試して一番良いものを選ぶのが、いちばん確実です。ただし並びの数は機種が増えるごとに一気に増えます。手元のパソコンで実際に測りました。
| 機種数 | 並びの数 | 全部試すのにかかった時間 |
|---|---|---|
| 7 | 5,040通り | 0.22秒 |
| 8 | 40,320通り | 2.08秒 |
| 9 | 362,880通り | 24.14秒 |
| 10 | 3,628,800通り | 267.36秒 |
機種が1つ増えるごとに、時間がおよそ10倍になります。 10機種で4分半かかっているので、この先は数時間、数日と伸びていきます。多品種少量の現場が1日に流す機種数は、ちょうどこの壁の上に乗っています。
ここで当方の担当者の話を1つ。前職で基板の表面実装を担当していたとき、1日に10機種以上を流していました。
投入順で段取りの回数が変わることには気づいていたので、すべての並びを試して最小を探すプログラムを実際に書いたそうです。 動かしてみると、途方もない時間がかかることが分かって、そこで諦めました。
この壁は計算機が遅かったせいではありません。並びの数そのものが増えるので、パソコンを新しくしても順番が1つか2つ増えるだけです。解き方を変えないと越えられません。
生成AIに一番良い順番を聞くとどうなるか
聞けば答えは返りますが、測った3回はどれも正解に届きませんでした。しかも遅くて、お金がかかります。
さきほどと同じ9機種の問題を、そのまま生成AIに渡して「合計が最も少なくなる投入順序を1つ決めてください」と聞きました。3回投げた結果です。
全部試して出た89回を、ここでは正解と呼びます。使ったのは Claude Opus 5 で、2026年9月13日に測りました。考える深さはモデルの既定のままです。
| 回 | 段取りの回数 | 正解との差 | かかった時間 | 費用 |
|---|---|---|---|---|
| 1回目 | 94回 | 5回多い | 129秒 | 44.24円 |
| 2回目 | 92回 | 3回多い | 110秒 | 40.99円 |
| 3回目 | 94回 | 5回多い | 118秒 | 41.64円 |
| 正解(全部試した答え) | 89回 | — | 24秒 | 0円 |
3回とも正解の89回には届きませんでした。答えも回ごとに違います。同じ問題を同じ文面で聞いているのに、1回目と2回目で別の順番が返りました。
生成AIは言葉を扱う道具なので、数え上げて比べる作業には向いていません。これはモデルの優劣ではなく、役割分担の話です。この先の節で、同じ問題をプログラムに解かせた結果と並べます。
費用を抑えようとして、かえって無駄になることがあります。 当方は最初、AIの返事の長さに上限をかけて測りました。すると3回とも中身が空で返り、47円だけがかかりました。答えが1つに決まらない問いでは、AIは長く考えます。その途中で打ち切ると、考えた分の料金は発生して、答えは受け取れません。
プログラムに解かせるとどうなるか
いちばん単純なやり方でも正解に近づき、探し方を変えると正解に並びます。どちらも0円で、1秒かかりません。
まず単純なほうから。「直前の機種と共通する部品がいちばん多いものを、次に流す」というやり方です。
人が現場で考えることに近く、先頭から1つずつ決めていって、決めた順番は後から見直しません。同じ9機種の問題で91回になりました。正解より2回多いだけです。
次に、探し方を変えます。遺伝的アルゴリズム(生き物が代を重ねて良い性質を残していく様子になぞらえた、答えの探し方)と呼ばれるやり方があります。
順番をいくつか用意して、成績の良いものどうしを混ぜ、たまに一部を入れ替える。これを何度も繰り返して、良い順番を残していきます。
上の単純なやり方とは別物です。 あちらは一度決めた順番を見直しませんが、こちらは順番を丸ごと何十通りも持っておいて、良いものどうしを混ぜながら作り直します。同じ問題で、あちらは91回、こちらは89回でした。
| やり方 | 段取りの回数 | 時間 | 試した並びの数 |
|---|---|---|---|
| 全部試す | 89回 | 24.14秒 | 362,880通り |
| 掛け合わせて探す | 89回 | 0.47秒 | 4,360通り |
全体の1.2%しか試していないのに、全部試した答えと同じところに届きました。 時間も50分の1です。機種が増えても試す数は変わらないので、全部試すほうが手に負えなくなった先でも動き続けます。
ただし、この探し方には「これが正解だ」という保証がありません。今回同じ答えになったと分かるのは、全部試した答えを手元に持っていたからです。機種が増えて全部試せなくなると、届いたかどうかは確かめられません。
ここまでの5つを並べます。
| やり方 | 段取りの回数 | 正解との差 | 時間 | 費用 |
|---|---|---|---|---|
| 受注順のまま | 105回 | 16回多い | 0秒 | 0円 |
| 生成AIに聞く | 92〜94回 | 3〜5回多い | 110〜129秒 | 42円 |
| 共通部品が多い順に選ぶ | 91回 | 2回多い | 1秒未満 | 0円 |
| 掛け合わせて探す | 89回 | — | 0.47秒 | 0円 |
| 全部試す(これが正解) | 89回 | — | 24.14秒 | 0円 |
42円と2分をかけたAIの答えが、0円で一瞬の単純なやり方に負けています。 順番を決める仕事は、生成AIに渡す仕事ではありません。
→ くわしくは「商品説明文はプログラムとAIと人の3step」で解説しています。
では、AIは何をする役なのか
順番を答える役ではなく、上のプログラムを書く役です。
当方の担当者が当時つまずいたのは、計算機の速さではなく、こういう探し方があると知らなかったことでした。いまは問題を説明すれば、AIが探し方の候補を挙げ、そのままコードにします。読者が数式やコードを覚える必要はありません。
AIに渡す指示文は、次のような形になります。
機種ごとに必要な部品の一覧があります。次の機種でも同じ部品を使うならセットし直さなくてよく、レーンの本数には上限があります。1日に流す機種の順番を変えて、部品をセットする回数の合計が少なくなる順番を探すプログラムを書いてください。全部の並びを試す版と、良い順番を掛け合わせて探す版の両方を作り、同じ数え方で結果を比べられるようにしてください。
※ 貼るだけで完成するとは書けません。部品表の列名も、レーンの数え方も現場ごとに違うので、そこは自社に合わせて直すことになります。
レーンに余りがあるかで、解き方が変わる
余りがあるかどうかで、単純なやり方で足りるかが変わります。
レーンの本数を変えて、同じ9機種を測り直しました。1機種が使う部品は20点なので、レーンが20本なら余りがまったく無い状態です。
| レーンの本数 | 受注順 | 共通部品が多い順 | 掛け合わせて探す | 全部試す |
|---|---|---|---|---|
| 20本(余りなし) | 130回 | 114回 | 114回 | 114回 |
| 24本 | 105回 | 91回 | 89回 | 89回 |
| 30本 | 83回 | 74回 | 72回 | 72回 |
| 40本 | 66回 | 60回 | 60回 | 60回 |
読み方は2つあります。ひとつは、レーンに余りがあるほど段取りの回数そのものが減ること。もうひとつは、単純なやり方が正解を外すことがあることです。
この部品の組み合わせでは、24本と30本で2回ぶん多くなりました。20本と40本ではたまたま一致しています。
余りがあると、後でまた使う部品を残しておく判断が要ります。余りがまったく無ければ、次の機種に要らない部品は全部降ろすしかないので、何を残すかを選ぶ余地がありません。
ただし、残し方を選べないことと、順番を単純に選んでよいことは別です。別の部品の組み合わせで試したところ、余りが無い20本でも、共通部品が多い順に選ぶと112回、全部試すと111回で、1回ぶん多くなりました。
余りがまったく無い現場には、もう1つ道があります。載っているのが常に直前の機種の部品そのものになるので、作り終えた機種の集合と最後に作った機種が同じ場面を、ひとまとめにして数えられます。
20機種なら243京通りの並びが2,097万場面まで減り、全部試したのと同じ答えが出ます。
この数え方は、余りが1本でもあると使えません。載せたままにできる部品が、後ろの機種まで見ないと決まらなくなるからです。
自社がどちらかは、その場で分かります。実装機のレーンの本数と、1機種あたりの部品点数を比べるだけです。
図:機種の数とレーンの余りで、どの解き方になるか
上の図は、自社がどの解き方になるかを2つの質問で分けたものです。10機種までなら数分で全部試せるので、難しい探し方は要りません。
10機種を超えて、レーンに余りがある現場が、いちばん手間のかかる側に入ります。自社が右下に来るなら、人の勘だけで順番を決めている分の差が残っている可能性があります。
自社で試す手順
最初から全機種を対象にしないでください。1つのラインの1日ぶんだけで試すと、うまくいかなかったときに原因がどこにあるか分かります。
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いまの段取り回数の上限を数える1日ぶんの投入順と、機種ごとの部品表を並べます。最初の機種の部品点数に、前の機種に無かった部品の数を足していきます。これはレーンに余りがまったく無いときの回数で、実際の回数はこれ以下になります。 仮の工場では、この数え方で130回、余りを使った計算では105回でした。実際の回数まで出すには、どの部品を残したかの記録が要ります。
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機種ごとの部品表を1つの表にする機種の名前と、使う部品の一覧が並んだ表を作ります。生産管理の仕組みから出せることが多い部分です。出せないなら、まず数機種ぶんを手で作って試します。
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順番を計算させる作った表を渡して、順番を探すプログラムをAIに書かせます。1日ぶんの機種数が10種類までなら、全部試す版だけで足ります(10種類で4分半でした)。
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現場の制約を足すここが本番です。段取りの回数だけを最小にした順番は、納期を割ります。締め切りの早い機種を先に置く、材料が届いていない機種は外す、といった条件を入れて計算し直します。納期より段取りを優先した計画は現場で使えません。
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同じ1日のデータで、前の順番と比べる手順1で使った1日ぶんのデータをそのまま使い、いままでの順番と、計算で出た順番の回数を比べます。同じ機種・同じ部品・同じ条件で比べるので、順番だけの差が出ます。 日をまたいで比べると、その日の機種の組み合わせが違うので、順番の効果を切り分けられません。
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実際に1日流して確かめる計算で差が出たら、その順番で1日流します。計算どおりに減ったか、現場で回るかを見ます。回数は計算で出せますが、時間に直すには1回あたりの時間を現場で計る必要があります。
費用はいくらかかるか
計算する部分にAIの利用料はかかりません。かかるのは、プログラムを書かせるときの利用料だけです。
順番を探す計算は手元のパソコンで動くので、動かすたびの費用は発生しません。今回の測定も、AIに順番を聞いた部分を除けば1円もかかっていません。以下の金額は2026年9月時点のものです。
費用が発生するのは2か所です。
| どこ | いくら | 何度かかるか |
|---|---|---|
| プログラムをAIに書かせる | 月額のAI利用料の範囲 | 作るときだけ |
| 生成AIに順番を直接聞く | 1回42円 | 毎日。今回の3回は正解に届かなかった |
払う先を間違えないことが、この記事でいちばん費用に効きます。 順番を毎日AIに聞けば、毎日お金がかかって、答えは単純なプログラムに負けます。一度プログラムを書かせてしまえば、計算そのものにAIの利用料はかかりません。
→ くわしくは「AI導入費用は月1万円から|3タイプ別の内訳」で解説しています。
FAQ
扱う必要はありません。中身を理解しなくても、プログラムができていれば動かすだけです。部品表を渡して順番を受け取る、という使い方になります。作るところはAIに書かせ、動かすところは決まった手順にしてしまえば、現場で扱うのは表の入れ替えだけです。
1回だけならその通りです。42円は、順番を答えさせたときの実測で、3回の平均です。プログラムを書かせる費用とは別の数字で、そちらは月々の利用料に含まれます。ただし毎日使うものなので、年に250日で1万円ほどになります。そのうえ今回の測定では、AIの利用料がかからない単純なやり方に負けました。順番を探すプログラムを一度書かせてしまえば、以後は手元で計算するだけなので、動かすたびのAIの利用料はかかりません。
- 多品種少量の現場では、流す順番を変えるだけで1日の段取り回数が減る。仮のデータでは105回が89回になった
- 全部の並びを試すやり方は、機種が1つ増えるごとに時間がおよそ10倍になる。9機種で24秒、10機種で4分半かかった
- 生成AIに順番を直接聞くと、3回とも正解に届かず、1回42円と2分かかった。共通部品が多い順に選ぶだけの単純なプログラムのほうが良い答えを出した
- 良い順番どうしを掛け合わせて探すやり方なら、全体の1.2%を試すだけで全部試したのと同じ答えに届いた
- AIの役目は順番を答えることではなく、この計算をするプログラムを書くこと。書かせたあとは、何度計算してもAIの利用料は追加でかからない
1日ぶんの投入順と機種ごとの部品表を並べ、最初の機種の部品点数に前の機種へ無かった部品の数を足して、いまの段取り回数の上限を数えてください。
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