AIにマニュアルを作らせるには、作業メモだけでなく、AIに出させた質問とベテラン社員の答えも一緒に渡す
当方の実演(架空の返品受付)では、作業メモと受注管理システムの画面写真だけで作らせたマニュアルは、別のAIに使わせても作業メモより良くなりませんでした。先にAIに質問を出させ、ベテラン社員の答えも渡した版だけが、はっきり良くなりました。
- 作業メモとシステムの画面写真しか無いなら … 「マニュアルにして」の前に「ベテラン社員に聞く質問を一覧にして」と頼む
- ベテラン社員が答えるとき … 1問1行で答え、決まっていないことは「決まりなし」と書く
- できたマニュアルを配る前に … 過去の実例を数件、マニュアルだけで処理できるか試す
マニュアル作成をAIに頼むと、何が抜けるのか
抜けるのは、ベテラン社員にとって当たり前すぎてメモに書かない決まりです。AIは手元のメモや画面写真に無いことを知りようがないので、当然マニュアルにも入りません。
当方では、架空の雑貨の通販会社で返品・交換の受付を題材に選びました。ベテラン社員が自分用に書いた想定のメモは、次の8行です。
返品の受付(田中メモ)
・メールの注文番号で受注検索→詳細→「返品・交換」
・期限は1週間。不良は1か月
・開封してたら基本ダメ(不良はOK)
・不良は送料うち持ち、検品センターに送ってもらう
・代引きは振込で返す
・1万超えたら課長
・在庫戻し忘れない
・最後にテンプレで連絡
このメモには、実際の決まりと比べて足りない所を10個仕込みました。主なものを、メモの書き方と並べてみます。
| メモの書き方 | 実際の決まり |
|---|---|
| 期限は1週間。不良は1か月 | 到着日の翌日から7日以内。初期不良と誤配送は30日以内 |
| 不良は送料うち持ち | 誤配送も、返送の送料は店が持つ |
| 1万超えたら課長 | 返金額がちょうど1万円でも、課長の承認が要る |
| 在庫戻し忘れない | 未開封で初期不良でなければ良品棚、開封済みか初期不良なら検品待ち棚へ戻す |
| (書いていない) | 初期不良と誤配送は、最初の送料も返金に足す |
| (書いていない) | 注文番号は「EC-」とハイフンを取った数字で検索する |
誤配送は、店が注文と違う商品を送ってしまったことです。届いた時点で壊れていた初期不良と同じく店の落ち度なので、扱いが近くなります。
どれも、毎日この仕事をしている人なら書くまでもないことです。新しく入った人がつまずくのは、こういう所です。
どうやって比べたか|作業役のAIに返品・交換の依頼を処理させた
比べたいのは、ベテラン社員のメモをそのままAIに渡してマニュアルを作らせる場合と、先にAIに質問させ、ベテラン社員が答えてから作らせる場合の違いです。メモをそのまま新人に渡す場合も、比べる基準として並べました。
人に試してもらう案も考えましたが、1人の結果では一般化できません。同じ人に2回やってもらうと、2回目は慣れで速くなります。そこで作業役もAIにし、1回ごとに前の会話を引き継がない、独立した状態で動かしました。
- マニュアルを作るAI … Claude(Opus 5.5)と Codex(OpenAI の開発者向けのAI。モデルは gpt-6-astra)
- 作業役のAI … DeepSeek(deepseek-v4-flash)と Gemini(3.8 Flash)。マニュアルを作った Claude・Codex とは別の会社のAIを選んだ。資料と画面の内容だけを見て、お客様からの依頼8件について、画面のどの項目に何を入れるかを答える
- 数え方 … 作業役が画面に入れる項目を1つずつ、正解と比べて数える(くわしくは次の節)。正解は決まりからプログラムで計算した
依頼8件は、どれもメモに無い決まりを使わないと正しく処理できないように作りました。ねらった境目は次の5つです。

- 期限の境目(2件) … 到着からちょうど7日目の返品は受付、8日目は対応不可
- 誤配送(2件) … 頼んだ色と違う商品が届いた件と、違う商品が届いた件。どちらも受付で、送料は店が持つ
- 初期不良(2件) … 脚がぐらつくスツールと、ひびの入ったマグカップ。返送先は検品センター、在庫は検品待ち棚
- ちょうど1万円(1件) … 代引きのデスクライト。銀行振込で返金し、課長の承認が要る
- 開封済みで断る(1件) … 使ってみたら色が暗かったマグカップ。対応不可
作業役に渡した資料は、次の4通りです。
| 渡したもの | 作り方 |
|---|---|
| A メモだけ | ベテラン社員のメモをそのまま |
| B・C そのまま作らせたマニュアル | メモと受注管理システムの画面写真5枚を渡し、「マニュアルを作って」とだけ頼んだ(B=Claude、C=Codex) |
| D 質問のあとのマニュアル | 先にベテラン社員への質問を出させ、ベテラン社員役が答えてから作らせた(Claude 版と Codex 版) |
画面写真は、ベテラン社員が1件を処理したときのものです。マニュアルを作るAIには写真のまま渡しました。
DeepSeek は画像を読めないので、作業役には写真の内容を文字に起こし、どの条件にも同じものを添えています。違いは「メモか、マニュアルか」だけです。

※ 実演のために作った架空の受注管理システムの「返品・交換の登録」の画面です。作業役は、この画面のどの項目に何を入れるかを答えました。
※ DeepSeek は API(プログラムからAIを呼び出す窓口・使った分だけかかる従量課金)で各条件3回ずつ動かしました。Gemini は当方の担当者がアプリの一時チャットに貼り、各条件1回ずつ動かしました。会社・商品・お客様はすべて架空です。
※ マニュアルは、AIごと・頼み方ごとに1回だけ作り、同じものを作業役に繰り返し渡しました。マニュアル作りは、当方の社内ルールを読み込まない空のフォルダで動かしています。
材料・正解の決まり・AIへの頼み方・AIが作ったマニュアル4本・作業役の答えと採点は、付録「マニュアル作成AIの実演の記録」にすべて載せています。
「マニュアルにして」と頼むだけで、メモより良くなるか
今回の実演では、良くなりませんでした。作業役が DeepSeek でも Gemini でも、正しく処理できた所はメモだけのときより少なくなっています。
数えたのは、作業役が1回の作業で画面に入れる78か所です。受付できる6件は12項目(受付できるか・送料・返金額・承認・在庫の戻し先など)、断る2件は3項目(注文番号・受付できるか・連絡のテンプレ)を数えました。
1か所ごとに、正しい・「不明」と答えた・推測で間違えた(表では「誤り」)、の3つに分けました。作業役には、資料から判断できないときは推測せずに「不明」と書くよう指示しています。人の新人なら、先輩に聞きに行く所にあたります。
次の表は、その数です。DeepSeek は3回の平均、Gemini は1回の結果です。
| 渡したもの | 作業役 DeepSeek(正しい/不明/誤り) | 作業役 Gemini(正しい/不明/誤り) |
|---|---|---|
| A メモだけ | 61.7/1.7/14.7 | 61/6/11 |
| B Claude のマニュアル | 57.7/11.3/9.0 | 51/9/18 |
| C Codex のマニュアル | 48.3/22.0/7.7 | 52/24/2 |
※ DeepSeek は小数第2位を四捨五入しているので、3つを足すと78にならないことがあります。
メモだけのとき、作業役は「不明」とはほとんど答えず、分からない所を推測で埋めて間違えました。たとえば DeepSeek は3回とも、ちょうど1万円の返品を、メモの「1万超えたら課長」という言葉どおりに承認不要としています。
しかも「迷った点」の欄には、3回とも承認の基準(ちょうど1万円の扱いや、何の金額で見るか)に迷ったと書いていました。迷っても「不明」とせずに答えを埋めてしまうのが、メモだけで任せたときの危うさです。
マニュアルにすると、「不明」と答える所が増え、そのぶん推測の誤りは減りました(Gemini の B だけは増えています)。
当方がいちばん驚いたのは、注文番号の入れ方でした。正しくは「EC-」とハイフンを取った数字で検索します。メモには書いていませんが、ベテラン社員の画面には数字だけを入れた例が写っていました。

※ 架空の受注管理システムの「受注検索」の画面です。赤枠の検索欄に、数字だけの注文番号が入っています。
Claude のマニュアルは、手順に「メールに書かれた注文番号を入れる」と書き、数字だけの例は「数字だけ入れても出てきました」と添えるだけでした。このマニュアルを渡すと、Gemini は8件すべてをハイフン付きのまま入れ、DeepSeek は3回とも数字で入れていました。
マニュアルの手順の文は、添えた例より強く効くことがあります。文と例が食い違っていると、読む人によって従うほうが割れます。
もう1つは、「不明」の多さです。Codex のマニュアルは、資料から決められないことを丁寧に「要確認」と書き分けていました。
慎重な作りですが、作業役は78か所中、DeepSeek が平均22か所、Gemini が24か所を「不明」と答えました。
メモの抜けをそのまま「要確認」として運んでも、新人が一人でできる範囲は広がりません。
先に質問させると、マニュアルの何が変わるか
抜けていた決まりがマニュアルに入り、作業役の判断がはっきり良くなりました。メモだけのとき(Before)と、質問のあとの Claude 版(After)を並べてみます。
※ 数え方は前の表と同じです。
質問の数は、Claude が40問、Codex が20問でした。仕込んだ10個の決まりには、どちらも全部に質問が当たっていました。たとえば次のような質問です。
- Claude:「『1万超えたら課長』の1万円は、何の金額ですか(返金額・注文の合計・商品1点の値段のどれか)。税込ですか。ちょうど10,000円のときは承認が要りますか。」
- Codex:「この例は注文合計4,780円に対して返金額3,980円ですが、送料800円を返さないのはどのルールによりますか?」
どちらも、ベテラン社員なら1行で答えられる質問です。
※ ベテラン社員役の答えは、決まりをまとめた手順書をもとに、当方の担当者とAI(Claude)で分担して書き、担当者が確かめました。この結果は「聞かれたことに正しく答えられた場合」です。
罠を仕込んだ4件で、作業役 DeepSeek が3回でどう答えたかを並べてみます。
| 依頼 | メモだけ | Claude のマニュアル | 質問のあと(Claude 版) |
|---|---|---|---|
| 誤配送で、到着から14日目の交換 | 対応不可×3(誤り) | 対応不可×3(誤り) | 受付×3(正しい) |
| 初期不良の返金額(送料込み13,600円) | 12,800円×3(誤り) | 不明×3 | 13,600円×3(正しい) |
| 返金額ちょうど1万円の承認 | 不要×3(誤り) | 不明×3 | 要×3(正しい) |
| 到着から7日目の返品 | 受付×3(正しい) | 不明1・受付2 | 不明×3 |
メモだけのときの誤りは、どれもメモの言葉どおりに読んだ結果です。「期限は1週間」を誤配送にも当て、書いていない送料は返金に足しませんでした。
最後の行は逆で、質問のあとの Claude 版で3回とも「不明」になりました。Claude は期限について「何の日付で判断しますか」と聞いていましたが、ベテラン社員役の答えは「到着日の翌日から7日以内」だけでした。
判断に使う日付(お客様から連絡が来た日)が答えに入らなかったので、マニュアルにはそこが「相談」として残りました。日付まで書いていた Codex 版のマニュアルでは、3回とも受付でした。答えの細かさが、そのままマニュアルに出ます。
ベテラン社員の答えが間違っていれば、その間違いもマニュアルに入ります。当方の担当者が最初に答えた25問のうち4問にも、決まりと違う答えや書き間違いがあり、手順書と突き合わせて直しました。
AIに質問させてマニュアルを作る手順
当方が実演で使った進め方を、社内で使える形に直しました。
そのまま作らせる場合との違いは、手順2と3です。ベテラン社員の手間はここで増えますが、今回の実演では、決まっていることは1行、決まっていないことは「決まりなし」で答えられました。
-
材料を1件分そろえるベテラン社員のメモと、実際に1件処理したときの画面写真を用意します。お客様の名前や住所は、社外のAIに送る前に消しておきます。
-
先に質問の一覧を出させる次の節の指示文1で、マニュアルを作る前にベテラン社員へ聞く質問を出させます。マニュアルを先に作らせると、抜けたまま整った文書ができてしまうためです。
-
ベテラン社員が1問1行で答える決まっていないことは「決まりなし」と書きます。推測で埋めると、その推測が決まりとしてマニュアルに入るためです。
-
質問と答えを渡して作らせる次の節の指示文2で、メモ・画面写真・質問と答えの3つから作らせます。当方の実演では、どちらのAIも1〜2分でできあがりました。
-
過去の実例で試してから配る過去の依頼を数件、マニュアルだけで処理できるか試します。AIを新人役にしてもかまいません。答えがベテラン社員の判断と合っているかは、人が見ます。
質問を出させる指示文と、作らせる指示文
当方が実演で使った文を、チャット画面向けに直しました。〇〇には業務の名前を入れます。
指示文1は、手順2で先に質問を出させる文です。
添付は、〇〇の受付をしているベテラン社員のメモと、
ベテラン社員が1件処理したときの画面写真です。
これをもとに、新しく入った人が一人で〇〇の受付を
できるように、マニュアルを作りたいと考えています。
マニュアルを作る前に、メモと画面写真だけでは
分からないこと・人によって読み方が分かれそうなことを、
ベテラン社員に聞く質問の一覧にしてください。
マニュアルはまだ作らないでください。
指示文1は、マニュアルを先に作らせないのが要点です。今回、質問させずに作らせた版(B・C)は、分からない所を「要確認」と書いたまま、整った形になっていました。
指示文2は、手順4で質問と答えから作らせる文です。
添付は、ベテラン社員のメモと画面写真と、
ベテラン社員に聞いた質問とその答えです。
これをもとに、新しく入った人が一人で〇〇の受付を
できるように、マニュアルを作ってください。
質問の一覧は長くなります。今回は Claude が40問、Codex が20問で、Codex は1問に3〜5個の小さな問いをまとめる形でした。
※ 業務が変われば、出てくる質問も答えも変わります。指示文は出発点として使い、自社の業務に合わせて直してください。
AIのマニュアルを新人に渡す前に、どこを確かめるか
今回の結果から、確かめる所は4つに絞れます。どれも、マニュアルを読み返せば見つけられる所です。
- 手順の文と例が食い違っていないか … 注文番号の件のように、文と例が違うと、読む人によって従うほうが割れる
- 「要確認」「相談」がいくつあるか … 多いほど、新人は自分で決められずに先輩に聞きに行く。決められるものは、配る前にベテラン社員が決める
- 境目の書き方 … 「1万超え」と「1万円以上」は、ちょうど1万円で答えが変わる
- 決まっていないことの相談先 … 「決まりなし」の項目に、だれに聞くかが書いてあるか
役割の分け方も、今回の実演ではっきりしました。AIが力を出したのは、メモの抜けを質問として掘り起こす所と、答えをマニュアルの形に整える所でした。
決まりを答えるのはベテラン社員で、配ってよいかを決めるのは責任者です。正しく処理できたかを数える所は、当方ではプログラムに任せました。
FAQ
今回の実演では、どのAIを使うかより、先に質問させるかどうかのほうが結果を大きく変えました。作業役 DeepSeek の場合、質問のあとの版は78か所中平均67〜72か所が正しく、そのまま作らせた版の48〜58か所を上回りました。Gemini でも76〜77か所と51〜52か所でした。
新人に渡す前に、過去の実例で試してください。今回そのまま作らせたマニュアルは見た目は整っていましたが、2つとも注文番号の入れ方を間違って書いていました。
頼む文は、チャット画面にそのまま貼れる形にしてあります。ただし、マニュアルを作る処理は開発者向けの道具(Claude Code と Codex)から呼び出して試しました。チャット画面では試していないので、結果が同じになるとは限りません。
- AIにマニュアルを作らせる前に、メモと画面写真だけでは分からないことを、ベテラン社員への質問の一覧として出させる
- 走り書きのメモに「マニュアルにして」とだけ頼んだ版は、当方の実演ではメモより作業役の判断が良くならなかった
- 質問にベテラン社員が1問1行で答えてから作らせた版は、作業役の DeepSeek と Gemini で78か所中67〜77か所が正しく、推測の誤りはほぼ0だった
- AIのマニュアルは、手順の文と例が食い違っていないか、「要確認」が多すぎないかを確かめてから配る
問い合わせの多い業務を1つ選び、メモと1件分の画面写真をAIに渡して、ベテラン社員への質問の一覧を出させる
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