リスキリングとは、変わった仕事に合わせてスキルを身につけ、やり方を変えていくこと
仕事の進め方が変わったとき、その変わった仕事をこなすためのスキルを身につけ直すことです。中小企業では、困っている作業を1つ選び、その担当者1人が学び直すところから始められます。
リスキリングとは何を指す言葉か
リスキリングは「学び直し」と訳されますが、趣味の勉強や資格取得の全般を指す言葉ではありません。仕事のやり方が変わったときに、その変わった仕事をこなすためのスキルを身につけることを指します。
新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること
この定義は、国が2021年2月に開いた検討会でリクルートワークス研究所が示したものです。国の資料に載ったことで広く使われるようになりました。
大事なのは「仕事のほうが先に変わっている」という前提です。社員が勉強不足だから学ばせるのではなく、仕事の進め方が変わったので合わせにいく、という順番になります。
資格を取らせること自体が目的になると、現場の作業は何も変わりません。どの作業がどう変わるのかを先に決めてから、学ぶ中身を選びます。
なぜいま中小企業でリスキリングが話題になるのか
背景にあるのは、デジタル技術の急速な発展で仕事の進め方が大きく変わり、DX(デジタル技術で仕事の進め方そのものを変えること)を担える人材の育成・確保が課題になっていることです。新しい道具は毎年増えますが、それを使える人が社内にいなければ、道具だけが増えて誰も触らない状態になります。
そして日本の場合、その担い手が足りないと答える会社が多くあります。DXを推進する人材の「量」が大幅に不足していると答えた企業は、アメリカが3.3%だったのに対し、日本は49.6%でした(IPA「DX白書2023」)。
| DXを推進する人材の「量」 | 日本(375社) | アメリカ(301社) |
|---|---|---|
| 大幅に不足していると回答 | 49.6% | 3.3% |
| 前年度(2021年度)調査 | 30.6% | 20.9% |
| 充足していると回答 | 10.9% | 73.4% |
出典: IPA「DX白書2023」(2022年度調査)
この表は、社員全体の人手不足ではなく「デジタルで仕事のやり方を変えられる人」の不足だけを示しています。
日本はこの割合が前年度から19ポイント増え、アメリカは17.6ポイント減りました。1年のあいだに、日本では「大幅に不足」と答える会社が増え、アメリカでは減ったということです。
差が付いた理由は資料に書かれていませんが、経営の判断としては読み方が1つに絞れます。
この人材は採用市場でも取り合いになっているので、外から採ってくる前提で計画を立てると、待っている間に何も進みません。いま働いている社員の担当範囲を広げるほうが、着手までが短くなります。
もう一つ、社長の立場から見て見落としやすい点があります。人が足りないまま同じ人数で回している会社ほど、社員が学ぶ時間を確保できず、道具を入れても定着しないという状態に陥ります。
差が開くのは道具の有無ではなく、道具を触れる人がいるかどうかです。だからこそ、最初は全社ではなく1人・1講座から始める形が現実的になります。
学ばせたら社員は辞めてしまうのか
社長からいちばん多く出る心配がこれです。辞める・辞めないを数字で示せる調査は当方の手元にありませんので、断定はしません。ただ、判断の材料になる考え方が2つあります。
1つ目は、会社が学ぶ機会に費用と時間を出していること自体が、社員から見れば続ける理由の一つになり得ることです。逆に、何年たっても同じ作業を同じやり方で続けさせる職場のほうが、外の求人が魅力的に見えます。
2つ目は、学ぶ中身の選び方で結果が変わることです。どこでも通じる資格を取らせるより、自社の帳票や自社の商品を題材にして学ばせるほうが、身につけた力はその現場でいちばん効きます。
この記事が「困っている作業から逆算する」順番を勧めるのは、効果が早いからだけではありません。
学ぶ機会があること自体が、社員が会社に残る理由の一つになり得ます。題材を自社の作業にすると、学んだ力を現場で生かしやすくなります。
教育を受けていない社員でも学べるのか
もう一つ多い心配がこれです。当方には、コンピューターの教育をまったく受けないまま、独学でプログラミングを覚えた担当者がいます。その経験から、社長の判断に使えることが1つあります。
この担当者は昭和の世代です。働き始めた頃、職場にITやDXを学ぶ機会はほとんどありませんでした。学ぼうと思えば、書籍を買うか図書館で借りるしかありません。研修も動画講座もない状態です。
それでも続いた理由は、教材の出来ではありませんでした。自分が毎日やっている作業が、書いたプログラムで実際に短くなったという手応えです。
効率化できたという実感が、次を学ぶ動機になりました。反対に、仕事と結びついていない勉強は、教材が良くても続きません。
ここから言えるのは、学ぶ意欲は研修を用意したから生まれるものではないということです。仕事のほうが意欲を引き起こす契機になります。本人が毎日「またこれか」と言っている作業が題材なら、動機はこちらで用意しなくても出てきます。
当方の担当者が独学を続けられたのは、題材が自分の毎日の作業だったからです。用意するのは意欲ではなく、題材です。
AIとプログラムと人で、何をどう分けるか
題材の作業が決まったら、次は学ぶ中身です。中小企業のリスキリングで実務に効くのは、AI(人工知能)に何でもやらせる技術ではなく、どの作業を誰に任せるかを分けられる力です。
ここが決まっていないと、講座を1本受けても現場の作業は変わりません。リスキリング=プログラミングを覚えること、でもありません。
やることは、選んだ作業を工程に割ることです。数える部分、文章にする部分、判断する部分に分けて見ます。工程のどれを何に任せるかで、必要なスキルが変わります。逆に、学ぶ中身を先に決めてから使い道を探すと、現場の作業と結びつきません。
3つに分けて、それぞれの得意に当てる
任せる先は3つです。作業を工程に割ってから、下の表に当てはめます。
| 任せる先 | 向いている作業 | 現場での例 |
|---|---|---|
| プログラム(関数・スクリプト) | 数える、合計する、決まった形に直す、毎日同じ時刻に動かす | 月次の売上集計、名簿の書式そろえ |
| AI | 言葉にする、下書きを作る、そのプログラムを書く | 報告書の下書き、集計用の関数を作らせる |
| 人 | 最後の決定、例外の判断 | 出す・出さないの判断、客先への回答 |
分ける基準は1つで、毎回まったく同じ答えが返る必要があるかです。売上の合計は、10回計算して10回とも同じ数でなければ困ります。報告書の書き出しは、10回とも同じ文章である必要がありません。前者がプログラム、後者がAIの担当です。
自社の作業に当てるときは、月末の集計を例に考えると分かりやすくなります。数字を合計する部分はプログラム、その結果に「先月より伸びた理由」を添える部分はAI、社外に出すかどうかを決める部分は人です。
1つの作業の中に3つとも混ざっているのが普通なので、作業ごとではなく工程ごとに分けます。
数える作業をAIに任せると、後から数字が合わなくなる
いちばん多い失敗が、集計や照合までAIに任せることです。当方の実務では、AIに文字数を数えさせても正確な値が返らないことが分かっています。モデルの優劣の話ではなく、数える仕事はプログラムの担当だという役割分担の話です。
やっかいなのは、返ってきた数字がそれらしく見えることです。合計欄に数字が入っていれば、人は合っていると思って次へ進みます。
間違いは、後で取引先から指摘されて見つかります。数える工程は関数やスクリプトに任せ、AIには渡さないと決めておくと、この手戻りは起きません。
講座を選ぶときも同じ見方をします。「AIで集計を自動化」とうたう内容は、数える工程を何に任せているかを確かめてから申し込みます。
→ くわしくは「商品説明文はプログラムとAIと人の3step」で解説しています。
AIに道具を作らせるとはどういうことか
ここが中小企業でいちばん効く形です。社員が関数の書き方を全部覚えなくても、やりたいことを言葉で伝えれば、AIが式やスクリプトを書いてくれます。出来上がるのはプログラムなので、同じ入力なら同じ計算を繰り返せます。
前の章で分けた3つのうち、プログラムに任せる工程を、AIに作ってもらう形です。社員がプログラマーになる必要はありません。
伝えるのは4つだけ
学ぶべきは、書き方そのものより、やりたいことを正確に伝える力です。伝えるときは次の4つを入れます。
- どの表の、どの列か
「A列に日付、B列に金額」のように、列の名前をそのまま伝えます。 - 何を出したいか
「月ごとの合計を別のシートに出したい」と、出したい形まで書きます。 - 例外をどう扱うか
空欄の行、マイナスの行、取り消した行をどうするかを決めて伝えます。ここを言わないと、AIは勝手に決めます。 - どこで動かすか
ExcelなのかGoogleスプレッドシートなのかで、書いてもらうものが変わります。
この4つを埋めた指示文は、そのまま次のような形になります。
Googleスプレッドシートで使う関数を書いてください。「売上」シートのA列に日付、B列に金額が入っています。月ごとの合計を「集計」シートへ出したいです。B列が空欄の行は数えないでください。
ただし、出てきたものをそのまま本番に使わないでください。列名も運用も現場ごとに違うので、必ず自分の表で動かし、手で計算した1か月分と数が合うか確かめます。
合わなければ、どこが違ったかをAIに伝えて直してもらいます。この往復ができるようになった時点で、その社員のリスキリングは1周終わっています。
覚えるのは関数ではなく、やりたいことを4つに分けて伝える形です。道具はAIが作り、正しさは自分の表で確かめます。
その先は、作った道具をAIに使わせること
道具が安定して動くようになると、次の段が見えます。道具を呼ぶところまでAIに任せる形です。人が「先月分を集計して」と伝えると、AIエージェント(指示を受けて、使う道具を選んで動かすAI)が、AIに作らせた道具を動かします。
返ってきた数字を前の月と並べ、おかしなところがあればそこを指して人へ回します。問題がなければ、結果を文章にして返します。最後に出すかどうかを決めるのは、人のままです。
ここで変わっていないのは、数える仕事の担当です。計算するのは道具のままで、AIは呼ぶ役と、結果を見て人へ回す役に回ります。
正しい道具に同じ入力が渡れば、計算の部分は毎回同じ結果になります。AIが自分で数え始めた時点で、数える工程をAIに渡したときと同じ失敗に戻ります。
ただし、いきなりここまでは来られません。人の言い方は毎回変わるので、どの言い方でも同じ道具を正しく呼ぶかを、何度も試して確かめる必要があります。
当方も自社の業務をこの形で回していますが、精度を上げる作業は試しの繰り返しです。ここを省くと、間違った結果が返っても誰も気づけません。逆に、一度固まった手順はAIに覚えさせておけるので、次からは呼ぶだけで済みます。
ここまで来たとき、人に残る仕事は2つになります。1つは最後の意思決定です。もう1つは、空いた時間を次の仕事へ向けることです。集計が半分の時間で終わるようになっても、空いた時間をそのままにすれば、会社として増えたものはありません。
費用はいくらかかるか(無料講座・助成金・給付金)
費用を左右するのは、受講する人数、講座が有料か無料か、そして休みを取らせるかどうかの3点です。実際に払う金額を決める前に、公的な支援で戻る分を見ておきます。
| 制度(すべて厚生労働省) | 何が受けられるか | 使うときの条件 |
|---|---|---|
| 中小企業リスキリング支援事業 | 専属コンシェルジュが、課題の整理から学び直しの進め方までを無料で提案 | 雇用保険の被保険者へ研修や職業訓練をしようとする中小企業。2026年度の相談を受付中 |
| 人材開発支援助成金 事業展開等リスキリング支援コース | 研修費の75%(中小企業)。eラーニングと通信制は1人15万円まで | 訓練が10時間以上。訓練開始の1か月前までに計画届を出す。eラーニングと通信制は賃金助成(1時間1,000円)の対象外 |
| 同コースの設備投資加算 | 訓練に伴って入れた機器の導入費用の50%(中小企業のみ) | 2026年4月8日から。1人15万円まで、10人以上でも150万円まで |
| 教育訓練休暇給付金 | 休んだ間の生活費として、失業給付の基本手当と同じ額 | 2025年10月開始。雇用保険の被保険者期間が5年以上。30日以上の無給休暇が必要。日数は90日・120日・150日のいずれか |
表の読み方として押さえておきたいのは、助成の対象が「研修費」と「休んだ間の生活費」に分かれていることです。働きながら少しずつ学ばせるなら上の3つ、一定期間まるごと空けて学ばせるなら最後の1つを見ます。
中小企業がまず当たるのは2行目です。ただし訓練が10時間以上でないと対象になりません。1時間の動画を1本見るだけの学び方は、この助成金では戻ってきません。
始めるときに10時間分の中身を組んでおくか、最初は無料で試して、続けると決めてから申請に進むかの二択になります。
その無料の選択肢が、地域のプログラムです。神奈川県は、県内に本社か事業所のある中小企業を対象に、DX人材育成プログラムを完全無料で提供しています。
オンライン動画(Udemy Business)での学習に、実践ゼミ6回と月1回の面談による伴走支援が付く形です。受講した社会福祉法人らっくでは、丸一日かかっていた作業が数秒で終わるようになりました。
この種のプログラムは企業単位で応募し、募集の時期が決まっています。神奈川県の2026年度分は応募(5〜6月)が終わっており、次は2027年度を待つことになります。自分の地域に同じ制度があるか、次の募集がいつかを先に調べてください。
費用の見当をつけるときは、いきなり全社研修の見積もりを取らないでください。「無料の講座で1人試す→効果が出た作業に有料研修を当てる→10時間以上の計画にして助成金を申請する」という順に金額を上げていくと、無駄が出にくくなります。
なお、100万円を超えるような大掛かりな育成計画や仕組みの導入を検討する段階では、IT導入補助金などの活用も選択肢になります。ただし申請の手間と審査があり、年度で要件が変わるため、最初の一歩では必須ではありません。
→ くわしくは「AI導入費用は月1万円から|3タイプ別の内訳」で解説しています。
最初の3か月で何をするか
困っている作業を1つ選ぶ
毎月かならず発生し、担当者が手作業でこなしている作業を1つだけ選びます。複数選ぶと、どれも中途半端になります。
選んだら、その作業に月何時間かかっているかを実際に測り、数える部分・文章にする部分・判断する部分に割っておきます。担当者は、その作業をいちばん多く触っている1人にします。学んだ効果が、すぐ本人の負担の軽さに返るためです。
無料講座で1人だけ試す
選んだ作業の担当者に、まず無料で学べるものを1本受けてもらいます。地域のプログラムが募集中ならそれが確実ですが、期間外なら各社が公開している無料講座でも構いません。
ここで見るのは講座の質ではなく、その社員が学んだことを自分の作業に当てられるかです。進め方に迷う場合は、厚生労働省の中小企業リスキリング支援事業で専属コンシェルジュに無料で相談する道もあります。
作った道具を職場で回す
学んだ内容をその作業に当てて、1つだけ道具を作ります。集計なら、先ほどの4つ(どの表のどの列か・何を出したいか・例外の扱い・どこで動かすか)を書いてAIに関数やスクリプトを作らせます。
できたものを実際の表で動かし、手で計算した1か月分と数が合うか確かめます。合ったら、翌月からその道具で回します。
この3か月で見るのは「社員が資格を取ったか」ではなく、選んだ作業の時間が減ったかです。ステップ1で測った時間と比べれば、続けるかどうかを数字で判断できます。
減っていれば次の作業へ広げ、減っていなければ選んだ作業か学んだ中身のどちらかが合っていなかったことになります。
1人・1作業・1講座に絞る形にしておくと、うまくいかなかったときの損失は講座1本ぶんの時間で済みます。反対に全社一斉に始めると、全員分の時間を空けられず、結局誰も最後まで受けません。
3か月の判定基準は「作業時間が減ったか」の1点にします。最初に時間を測っておかないと判定できません。
学んだ本人だけが道具を使える状態にすると、その人が休んだ日に作業が止まります。作った道具の使い方を紙1枚にまとめ、もう1人が触れる状態にしておきます。
よくある質問
A. リスキリングは、仕事の進め方が変わったことに合わせてスキルを身につけ直す取組を指します。定義は、リクルートワークス研究所が経済産業省の検討会で示したものが広く使われています。今の職業で必要なスキルが大きく変わったときに、それに合わせて必要なスキルを身につけることです。マナー研修のような一般的な教育とは違い、変わった作業を出発点に中身を決める点が特徴です。
A. 取り組めます。対象を1人・1作業に絞れば、全社の予定を止めずに進められるためです。神奈川県のように、県内の中小企業へ完全無料のDX人材育成プログラムを用意している地域もあります。ただし企業単位で応募する形で募集の時期が決まっているため、自分の地域の制度と次の募集時期を先に調べてください。
A. 人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースなら、中小企業は研修費の75%が戻ります。eラーニングと通信制は1人15万円までで、この形では賃金助成(1時間1,000円)は付きません。訓練が10時間以上あることと、訓練開始の1か月前までに計画届を出すことが条件なので、申請前に公式サイトで最新の要件を確認してください。
- リスキリングとは、仕事の進め方が変わったことに合わせて必要なスキルを身につけ直すことで、定義はリクルートワークス研究所が経済産業省の検討会で示した。
- DXを推進する人材が大幅に不足していると答えた企業は日本49.6%・アメリカ3.3%(IPA「DX白書2023」)で、外から採る前提では着手が遅れる。学ぶべきは、数えるのはプログラム、言葉にするのはAI、決めるのは人、と工程ごとに任せ先を分けられる力である。
- いちばん効くのはAIに道具を作らせる形で、覚えるのは関数の書き方ではなく、対象の列・出したい形・例外の扱い・動かす場所の4つを伝える形である。その先は作った道具をAIに呼ばせる形になるが、計算するのは道具のままにする。
- 当方の担当者は、職場でIT教育を受ける機会がないまま、毎日の作業を題材に独学を続けた。学ぶ意欲は研修ではなく、目の前の作業が引き起こす。
- 研修費は助成金で75%(eラーニングと通信制は1人15万円まで・中小企業)が戻るが、訓練10時間以上と訓練開始1か月前の計画届が条件になる。
毎月いちばん時間を取られている作業を1つ書き出し、その作業に月何時間かかっているかを測る。
自社の業務に合わせたAIツールの選定・導入は、ぜひ、ジッソウLABのゲンバAIへ無料でご相談ください。
参考にした資料
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