少人数の在庫表なら、Googleスプレッドシートの共有がいちばん早い
数人から十数人で1つの在庫表を見るなら、Googleスプレッドシートに置いて共有するのがいちばん早く始められます。しかも、使いながら自分たちで直していけます。
- 数人〜十数人・数百〜数千行 … 共有シートで足ります
- 入力や表示に待ち時間が出た/同時に開くタブや端末が100に近い … データベースを使ったシステムへ
- 部署ごとに表の形が違う … どちらへ進む前に、先に形をそろえます
扱う件数が最初から多いと分かっているなら、はじめからデータベースで作る選び方もあります。ただ、多くの現場では上限に当たってから移す進め方でも間に合います。
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無料の15GBで始められ、費用が発生するのは容量か管理機能が足りなくなってからです。
まず、いまいくらかかるのかをはっきりさせます。何を比べる表かというと、無料のGoogleアカウントと、有料のGoogle Workspaceで何が変わるかです。
| 項目 | 無料アカウント | Business Starter(2026年8月時点) |
|---|---|---|
| ストレージ容量 | 15GB | 1ユーザーあたり30GB |
| 月額費用 | 0円 | 1ユーザーあたり月額800円(税抜) |
| 向いている規模 | 数人〜十数人の部署単位 | 社内全体で本格運用する段階 |
この比較が示すのは、最初の一歩には無料アカウントで十分だということです。在庫表や生産管理表程度のファイルサイズであれば、15GBはかなりの余裕があります。写真や動画付きの記録を大量に扱うようになった段階で、初めてGoogle Workspaceへの切り替えを検討すれば足ります。
Google Workspaceには14日間の無料トライアルがあります。さらに新規契約は最初の3か月が50%オフで、Business Starterなら月額400円です。ただしこれは導入時だけの価格で、4か月目からは通常の800円に戻ります。予算を組むときは800円で見ておいてください。
いきなり全社導入して月額費用が積み上がることを避けたい社長にとって、この段階的な進め方は無理のない選択です。
→ くわしくは「AI導入費用は月1万円から|3タイプ別の内訳」で解説しています。
共有にすると何が変わるか
多くの小規模製造業では、在庫表や生産進捗表がExcelファイルのまま部署ごとのパソコンに置かれています。誰かが更新すると、他の人は古い版を見ている状態になりがちです。メールに添付して送るたびにファイルが増え、どれが最新か分からなくなる現場も少なくありません。
何を比べるかというと、共有方法を変える前後で、情報の受け渡し方がどう変わるかです。
この比較で分かるのは、単に「クラウドに置く」だけで、ファイル管理・同時作業・誤操作からの復旧という3つの問題が同時に解決に向かうということです。特に変更履歴は、誰かが誤って数値を消してしまった場合の保険になります。変更履歴は名前付きの版を最大15個まで保存できるため、月末の締め時点や棚卸し前の状態を残しておく使い方もできます。
ただし、共有シートの本当の強みは機能の一覧ではありません。作るのも直すのも速いことです。専用の生産管理システムを導入するとなると、選定や予算確保に数か月かかることもあります。共有シートなら、今日の午後にでもアップロードして共有リンクを送れます。
そして運用が始まったあとも、項目を1列足したい・並び順を変えたいといった要望に、その場で応えられます。当方が自分で作って動かしている業務でも、この「現場が表を直接開いて直せる」という点がいちばん効きました。不具合が起きたときに、担当者が自力で戻せるからです。
関数と自動化は、どこまでできるか
共有だけが取り柄ではありません。関数も自動化も、Excelでやっていたことの多くはそのまま置き換えられます。
たとえばXLOOKUP(条件に合う行を探して、別の列の値を返す関数)は、Googleスプレッドシートでは後から追加された関数です。Googleの告知によれば発表は2022年8月24日、全ユーザーへの提供完了が2022年9月26日でした。同じときに、探した位置を返すXMATCHや、自分で関数を作れるLAMBDAも入っています。以前に試して使えなかった関数が、いまは使えるようになっていることがあります。
自動化はGoogle Apps Script(スプレッドシートに処理を書き足すための仕組み)が担います。公式の説明では、次のことができます。
=SUM(A1:A5)のような自作の関数を作る- 独自のメニューやダイアログを足す
- ファイルを開いたとき・セルを編集したときに処理を走らせる
- Gmail・カレンダー・ドライブと連携する
在庫表なら、数量を書き換えた時点で決めた数を下回った品番に印を付ける、といった処理をここで組みます。
ただし、表計算ソフト単体として見ればExcelのほうが高機能です。関数の種類もグラフ機能もExcelが上で、スプレッドシートの利点は性能ではなく全員が同じ機能・同じ関数を使えることにあります。社内でExcelの版が揃っていないと「この関数はうちのExcelでは動かない」という食い違いが起きますが、それがなくなります。
1週間で共有化する手順
この5つは1つの表だけを対象にすれば、実質1〜2日の作業で終わります。
進めるのは責任者です。少人数の現場で担当者任せにすると、決め方がばらばらになって混乱します。日々その表を更新している人たちの意見を聞きながら、責任者が更新を進めてください。
共有する台帳を1つだけ選ぶ
在庫表・日報・生産進捗表のうち、最も更新頻度が高く関わる人数が多いものを1つ選びます。複数の表を一度に移そうとすると、どれが移行済みか分からなくなり混乱の原因になります。
Googleドライブにアップロードする
選んだExcelファイルをGoogleドライブの画面にドラッグ&ドロップするだけでアップロードできます。既存のファイル名や中身は変わりません。
このとき、Googleスプレッドシート形式に変換するかどうかを決めます。変換したい場合はファイルをダブルクリックして開き、[ファイル]→[Googleスプレッドシートとして保存]を選びます。変換すると、元のExcelファイルとは別に新しいファイルが作られます。
複雑な関数を組んだ台帳は、まず変換せずに.xlsx形式のまま共同編集を試すのが安全です。表がシンプルな在庫リストや日報程度であれば、変換したほうが全員が同じ挙動で使えます。
共有リンクを発行し権限を決める
ファイルを開き[共有]→[リンクを取得]と進み、権限を「編集者」「コメント可」「閲覧者」から選びます。リンクをコピーして、関係者にチャットやメールで送ります。
ここで権限を決めておかないと、あとから直すのは手間です。数字を見るだけの人には「閲覧者」を選んでおくと、意図しない上書きが起きません。
現場に同時編集を試してもらう
2人以上に同時にリンクを開いてもらい、それぞれ別のセルを編集してみます。相手の入力がその場で反映されるのを確認できれば、社内での運用開始の合図になります。
この確認を飛ばすと、実際の運用が始まってから「自分の画面だけ更新されない」といった相談が個別に出てきます。最初に全員で1回試すほうが早く済みます。
変更履歴の使い方を共有する
画面上部の履歴アイコンから、誰がいつどのセルを変更したかを確認できることを担当者全員に伝えます。誤って消してしまった数値も、この履歴から復元できます。
復元できることを知らないままだと、誤削除が見つかったときに手作業で入力し直すことになります。1回説明しておくだけで、その手間がなくなります。
→ くわしくは「経費精算をマネーフォワードで自動化する手順」で解説しています。
スプレッドシートで足りなくなる合図
ここから先は「共有シートが悪い」という話ではありません。向いている規模を外れたという合図です。
小規模で少人数のうちは、共有シートが最良の選択です。規模が大きくなると、次の2つが移行を検討する合図になります。
- 入力や表示に待ち時間が出る
1ファイルの上限は1,000万セル・18,278列で、行数だけで先に当たることはまれです。重くなる原因は行数より、その行で何をしているかにあります。Googleの公式解説は、TODAY・NOW・RANDのように値が変わる関数や、不要な条件付き書式のルールが計算速度を落とすと説明しています。行が万単位に近づいたら、待ち時間が出ていないかを見始める目安にしてください。行数そのものが移行を決めるわけではありません。 - 同時に開くタブや端末が100に近づく
Googleスプレッドシートは、最大100個のタブまたはデバイスで同時に編集できます。これを超えると、オーナーと編集権限のある一部のユーザーしか編集できなくなります。1人が複数の端末で開くと、その分だけ数が増えるので、人数よりも余裕を見ておいてください。
移す前に片づける課題:表の形がばらばら
もう1つ、規模とは関係なく出てくる課題があります。部署ごとに表の形が違ってきた場合です。
Excelでの管理は個人で完結できるので手軽です。ところがその手軽さゆえに、部署ごと・担当者ごとに項目名や単位がずれていきます。1つ1つの表はよくできていても、集めて1つにしようとした瞬間に揃わない、という形で表面化します。
これは容量の問題ではないので、有料プランに変えても、データベースへ移しても解決しません。置き場所を移す前に片づけておく課題です。放置したまま新しい仕組みを入れると、ばらばらのまま引っ越すことになります。
移り先は、データベースを使ったシステム
上の2つの合図が出たとき、あるいは最初から件数の多さが分かっているときの置き場所が、データベース(決まった形で記録を貯める専用の仕組み)です。必要な行だけを条件で取り出せます。表計算ソフトと違い、多くの人が同時に書き込んでも順番を保てるように作られています。
途中で移し替えるには、項目をそろえ直して入れ替える手間がかかります。作り直しを避けたい場合や、扱う件数が最初から万単位になると読める場合は、はじめからこちらで組むほうが結果的に近道です。
何を比べる表かというと、小規模企業が現実的に選べる3つの選択肢で、費用と置き場所がどう違うかです。
| 選択肢 | 費用 | 置き場所 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| PostgreSQL | 無料(オープンソース) | 自社のパソコンやサーバー | 費用をかけずに本格的に組みたい |
| Microsoft SQL Server Express | 無料(1データベース10GBまで) | 自社のWindowsサーバー | 社内がWindows中心で揃っている |
| Supabase | 無料枠あり/有料は月$25〜 | クラウド(借りる) | 自社にサーバーを置きたくない |
この表の読み方は「どれが高機能か」ではありません。サーバーを自社で持つか、借りるかです。PostgreSQLは商用利用も含めて料金なしで使えると公式に明記されており、費用は自社のサーバー代と手間だけになります。SQL Server Expressも無料ですが、1つのデータベースが10GBまで、使えるメモリが1,410MBまでといった制限があります。
Supabaseは、この2つとは性格が違います。中身は完全なPostgreSQLで、それをクラウドで借りる形です。公式は「すべてのSupabaseプロジェクトは、Postgresの抽象化ではなく完全なPostgresデータベースを持つ」と説明しています。自社にサーバーを置かずに始められるのが利点です。
無料枠を使うときに、先に決めておくこと
無料枠は「安い」ではなく「止まる条件が付いている」と読んでください。
当方が個人で作って動かしているアプリでは、データの置き場所にSupabaseの無料枠を使っていました。性能も使い勝手も申し分なかったのですが、しばらくアクセスしない期間があるとプロジェクトが一時停止し、管理画面から手で戻すまで動かない状態になりました。Supabaseの公式は、無料プランについて1週間操作がないとプロジェクトが一時停止すると明記しています。
毎日使う業務なら止まってもすぐ気づきます。問題は、月に数回しか触らない台帳や、担当者が長期で休んだ週です。「止まった」と分かる人が社内にいないと、そこで運用が終わります。
そこで当方は、置き場所を無料枠のデータベースから共有シートへ戻しました。速度は落ちましたが、扱う件数が数百から数千行の範囲では体感で困りませんでした。無料枠を使うなら、契約前に「何日使わないと止まるか」「止まったら誰が戻すか」の2つを決めておいてください。有料プランに上げれば停止はなくなり、Supabaseの場合は日次バックアップが7日ぶん保持されます。
※ 停止までの日数や条件はサービスごとに違い、変わることもあります。上の日数はSupabaseの2026年8月時点の条件です。
シートのままか、データベースへ移すか
下の図は、いまの在庫表をどちらで運用すべきかを判断するためのものです。
図:在庫表の置き場所を、待ち時間と同時編集の数から決める判断フロー
読み方は単純です。左の枝に当てはまるうちは、費用をかけて仕組みを作らなくても回ります。真ん中の枝へ進むのは上限に当たってからで間に合いますが、扱う件数が増えると先に読めているなら、最初からそちらで組んでも構いません。
そして一番下の枝は、規模と関係なく先に片づける作業です。自社がここに当てはまる場合、置き場所をどちらに決めても同じ問題が残ります。項目名と単位をそろえてから移してください。
AIに使わせる前に、データが1か所に揃っているか
ここまでは置き場所の決め方でした。共有して1か所にまとめる作業には、もう1つ効き目があります。将来AIに集計や予測をさせるときの、下ごしらえになることです。
在庫や発注をAIに扱わせようとすると、たいていツール選びの前でつまずきます。つまずくのは、その前のデータです。
当方が運用している業務でも、いちばん大変だったのはツールの導入ではなく、ばらばらに置かれた在庫と発注のデータを1つにまとめる作業でした。体感では、プログラムを組んで仕組みにするよりも大変です。ツールは買えば手に入りますが、データの揃え方は買えません。
ここで多い誤解は「紙をやめてデジタルにすればAIが使える」というものです。実際に多いのは「紙しかない」ではなく「デジタルだけどバラバラ」という状態です。表計算ファイルが部署ごとに分かれ、項目名も単位も違うなら、集めた時点で1つの表になりません。
だからこそ、共有シートに1か所へまとめる作業は、AIを使うための下ごしらえとしてそのまま効きます。この段階では、次の順で進めると無駄が出ません。
- 1つの表に集める
置き場所を1つにして、全員が同じファイルを見る状態にします。この記事の手順がそのまま当てはまります。 - 項目名と単位をそろえる
「品番」と「商品コード」のような表記のゆれを1つに決めます。会社としてどの形で残すかを決める作業なので、現場の担当者だけでは終わりません。 - 入力をフォームから集める
現場からの日報や不良品報告をGoogleフォームで入力してもらうと、回答は自動的にスプレッドシートに集約されます。手で転記する作業がなくなり、同時に表記のゆれも起きにくくなります。
スプレッドシートに関連づけたGoogleフォームの回答は、自動的にスプレッドシートに集約され管理できる。
出典: https://support.google.com/docs/answer/139706?hl=ja
ここまで整うと、AIに渡せる材料になります。Googleは自社の解説で、自然言語の指示によってスプレッドシートを作成したり、表に新しいデータを自動入力したりできると説明しています。データベースへ移した場合は、必要な行だけを条件で取り出してAIに渡せるようになり、件数が増えても扱いやすくなります。
AIが出すのは集計や予測であって、判断ではありません。当方が需要予測を入れたときも、手で集計する作業は消えましたが、出てきた数字を確かめて決める仕事は残りました。発注量を最後に決めるのは人です。
この順番で進めれば、AI導入の前段で止まることはありません。まず1つの表を共有し、形をそろえる。そこまで来てから、次の道具を選べば十分に間に合います。
FAQ
A. できます。 Googleアカウントがあれば、Excelファイルをドライブにアップロードして共有リンクを送るだけで始められます。新しいソフトの操作を覚える必要はなく、今の表をそのまま使えます。
A. 最初は0円で始められます。 無料のGoogleアカウントで15GBのストレージが使え、在庫表程度のファイルなら容量を気にする必要はほとんどありません。社内全体で本格運用する段階になったら、1ユーザー月額800円のBusiness Starterへの切り替えを検討します。
A. 入力や表示に待ち時間が出たとき、または同時に開くタブや端末が100に近づいたときです。 行が万単位に近づいたら待ち時間を見始める目安になりますが、行数そのもので決まるわけではありません。なお、部署ごとに表の形が違ってきた場合は、規模と関係なく先に項目名と単位をそろえる必要があります。
A. 変換せずに.xlsx形式のまま編集すれば、元の関数やレイアウトを保ったまま共有できます。 ただしExcelはバージョンによって使える関数に差があります。社内で版が揃っていないなら、Googleスプレッドシートに統一したほうが共同編集時の挙動が全員そろいます。なお、VBAでシートに1つずつ書き込む処理を組んでいる場合は、そのままでは時間がかかります。配列にまとめて一度に貼り付ける形へ書き直すことになるので、マクロのある台帳は移行の対象から後回しにしてください。
A. 変更履歴から過去の版を復元できます。 セル単位の編集履歴が残り、名前付きの版も最大15個保存できるため、月末や棚卸し前の状態を残しておく使い方もできます。この使い方を担当者全員に伝えておくと、誤削除がそのまま放置されることを防げます。
- 数人から十数人・数百から数千行の在庫表なら、Googleスプレッドシートの共有が最も早く始められ、無料の15GBの範囲で運用できる
- 共有シートの強みは機能の多さではなく、作るのも直すのも速く、現場が自分で表を開いて直せること
- Googleスプレッドシートは同時に編集できるのが最大100個のタブまたはデバイスまでで、これを超えると編集できる人が制限される
- 規模が上限に近づいたら、無料のPostgreSQLやSQL Server Express、クラウドで借りるSupabaseといったデータベースへ移す
- 部署ごとに項目名や単位が違う状態は、置き場所をどちらに決めても残るので、移す前にそろえておく
更新頻度がいちばん高い表を1つだけ選び、Googleドライブに上げて共有リンクを送る
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