デジタル化が止まる原因は「何から」より予算と人
小規模企業のデジタル化で最も多い壁は、進め方が分からないことではありません。従業員20人以下の課題は、最新の調査で1位が予算の確保、3位がIT人材の不足でした。
調査から見えるのは、この2つです。ただし実際に始めると、その土台として「記録の形がそろっていない」という3つ目の壁が現れます。
- 予算の壁 … 無料から試す段階を先に置き、効果を確かめてから投資を決める
- 人の壁 … 土台づくりは外部に頼み、日々の入力と運用は社内で持つ
- データの壁 … ばらばらの記録を1つの形にそろえる
「何から始めればいいか」は、いま4位まで下がった
デジタル化の記事では「中小企業は何から始めてよいか分かっていない」と書かれることがよくあります。ところが、この前提は最新の調査では成り立たなくなっています。
中小機構(中小企業基盤整備機構)が2026年2月に公表した「中小企業のDX推進に関する調査」があります。全国の中小企業の経営者・経営幹部1,000社に、2025年12月に聞いた結果です。ここでDX(デジタル技術を使って仕事のやり方や商売の形を変えること)の課題を尋ねると、従業員20人以下の会社では順位が入れ替わっていました。
| 順位 | 2023年の調査(602社) | 2025年の調査(522社) |
|---|---|---|
| 1位 | 何から始めてよいかわからない 27.7% | 予算の確保が難しい 28.1% |
| 2位 | 予算の確保が難しい 26.2% | 具体的な効果や成果が見えない 22.5% |
| 3位 | 具体的な効果や成果が見えない 19.8% | ITに関わる人材が足りない 21.1% |
| 4位 | ITに関わる人材が足りない 19.1% | 何から始めてよいかわからない 20.9% |
2年前に1位だった「何から始めてよいかわからない」は、20.9%まで下がって4位になりました。代わりに前へ出たのが、お金と人です。全国の中小企業1,000社の全体で見ると、この項目はさらに低く13.9%で、6位まで下がります。
進め方が分からない会社は減り、お金と人で詰まる会社が前に出た、というのがこの2年の変化です。
自社に当てはめるとどうでしょうか。「やりたいことは決まっているのに動けていない」なら、それは珍しい状態ではありません。いま最も多い詰まり方です。そして、詰まっている場所が分かれば、打つ手も具体的になります。
動きたい会社と、その気がない会社では、詰まる場所が違う
同じ調査には、DXの取組み状況ごとに課題を分けた集計もあります。ここを見ると、全体の平均では隠れていた差が出てきます。
| 課題 | 必要だと思うが取組めていない(294社) | 取組む予定はない(315社) |
|---|---|---|
| ITに関わる人材が足りない | 33.7% | 13.0% |
| DX推進に関わる人材が足りない | 32.0% | 12.1% |
| 予算の確保が難しい | 30.6% | 20.0% |
| 具体的な効果や成果が見えない | 20.4% | 25.7% |
| 何から始めてよいかわからない | 10.9% | 31.4% |
「必要だと思うが取組めていない」294社にとって、「何から始めてよいかわからない」は10.9%しかありません。上位3つは、人材・人材・予算です。一方、「取組む予定はない」315社では、同じ項目が31.4%で1位になります。
読み方はこうです。全体の数字には、必要性を感じながら取組めていない会社と、現時点では取組む予定のない会社が混ざっています。前者が実際にぶつかっているのは、進め方よりも人材と予算でした。
もし「必要性は感じているが、まだ動けていない」という状態なら、探すべきなのは進め方の一般論ではなく、予算と人の具体的な越え方です。
なお、同じ調査ではDXのロードマップ(いつ何をやるかの計画表)を作っていない会社が全体で66.0%あり、「必要だと思うが取組めていない」会社に限ると78.2%に上がります。やりたい気持ちはあっても、計画として書き出すところまで進んでいない会社が多い、ということです。
予算の壁:投資を決める前に「試す段階」を置く
費用が読めなければ、投資は決められません。ここは順番を変えるだけで越えられます。当方は、費用を3つの段階に分けて考えています。
次の表の①は当方の実務からの目安で、②③はLeachの調査(2026年1月公表時点)で示されている金額です。幅があるのは、扱う業務の数や既存システムとつなぐかどうかで変わるためです。
| 段階 | 費用の目安 | 何をする段階か |
|---|---|---|
| ①試す | 無料でも可。続けるなら1人あたり月3,000円ほどの有料プラン | 1業務だけ選び、時間と件数を測る |
| ②簡易自動化 | 初期投資5万〜30万円・回収3〜6か月 | 1つの作業を任せる |
| ③業務プロセス自動化 | 30万〜150万円・回収6〜12か月 | 販売管理や会計など既存システムとつなぐ |
いちばん多いつまずき方は、②の5万〜30万円をいきなり見積もることです。金額を先に見ると「うちには高い」で話が終わります。実際には、その手前に0円から試せる段階があります。
無料のまま業務で使い続けられるわけではありません。試したうえで続けると決めたら、有料プランの費用が要ります。月3,000円ほどというのは1人あたりの目安なので、使う人数分かかることも見ておきます。
補助金についても、「大きな金額からしか使えない」という思い込みがあります。デジタル化・AI導入補助金の通常枠は、業務プロセスを1つ以上含むソフトウェアであれば5万円以上150万円未満の範囲から申請できます(2026年8月時点)。補助率は1/2以内で、一定の要件を満たす場合は2/3以内です。クラウドサービスの利用料も、最大2年分まで対象になります。
ただし条件があります。対象になるのは事務局の審査を受けて登録されたITツールで、申請は事務局に登録されたIT導入支援事業者と一緒に進めます。交付申請にも審査があり、補助事業を始められるのは交付決定の通知を受けた後です。要件は年度ごとに変わります。
つまり、思い立ってすぐ使える仕組みではありません。最初の1業務を試す段階では、補助金を待つより先に手を動かしたほうが早いことが多いです。金額が大きくなる②③の段階で、改めて検討すれば間に合います。
→ くわしくは「AI導入費用は月1万円から|3タイプ別の内訳」で解説しています。
人の壁:土台は外部、運用は社内で分ける
社内に詳しい人がいないことは、デジタル化をあきらめる理由になりません。分担を決めれば進みます。
小規模企業では、システムの土台づくりは専門知識を持つベンダー(システムを作る外部の会社)に依頼し、日々の入力や運用は社内で担うやり方が現実的だとされています。社長がすべてを自分で覚える必要はありません。
そのうえで大事なのが、運用担当者を1人決めて、その人が使いこなせる範囲の道具を選ぶことです。担当者が扱えない道具は、どれだけ高機能でも現場で止まります。道具の性能より、使う人に合っているかを先に見ます。
範囲を絞れば、少ない人手でも成果は出ます。IT整備士協会のコラムでは、埼玉県の製造業A社が全業務ではなく受発注システムだけをクラウド化し、月間40時間の工数削減につながった例が紹介されています。範囲を絞ったからこそ、短期間で成果につながっています。
外の力を借りる先は、ベンダーだけではありません。同じ調査で期待する支援策を聞くと、補助金・助成金が43.9%で1位ですが、研修制度が16.0%、専門家の派遣が15.7%と続きます。道具を買う前に相談できる先を持っておくと、選定でつまずきにくくなります。
人がいないときに最初に決めるのは、道具ではなく「誰が運用を持つか」です。
データの壁:AIより先に、実績を残せる形にする
3つ目の壁は、外からは見えにくい場所にあります。道具を入れる前の、記録の形です。
当方が請けた鉄骨加工の案件では、受注から見積、生産計画までの流れに関わりました。やったことは、作業項目と工数をデータベース(後から検索・集計できる形でデータを並べた入れ物)に登録したことだけです。それだけで過去の実績から集計できるようになり、見積にかかる時間は体感でおよそ半分になりました。
※ この案件では生成AIもAIツールも使っていません。効いたのは計算を速くする道具ではなく、過去の実績を集計できる形で残したことです。
ここに順番の答えがあります。実績が登録されていない会社では、AIを足しても集計するものがありません。 先に来るのは記録の形で、AIはその後です。
Excelについても同じことが言えます。Excelは個人で作れるので手軽で、そこが長所です。ところが誰の承認も要らずに作れるため、部署ごと・担当者ごとに項目名や単位が変わっていきます。1つ1つの表はよくできていても、集めて1つの表にしようとした瞬間に揃いません。問題が見えるのは、ばらばらになってからずっと後です。
当方の運用では、このばらばらのデータを1つにまとめる作業が、全体でいちばん大変な工程になりました。体感では、プログラムを組んでシステムにするよりも大変です。表記ゆれや重複、欠けたデータが多いと、整えるだけで数週間かかることもあります。
対象の業務は1つに絞れますが、記録の形をそろえる工程は会社全体の話になります。ここが、小さく始める進め方の唯一の例外です。「うちはこの形でデータをまとめる」という会社としての決めごとが要ります。店舗や部署ごとに項目名と単位が違うままでは、いくら集めても1つの表になりません。
逆に言えば、ここを越えた会社は強くなります。集計できる形が手に入ると、予測の精度が上がり、作業のやり方も揃っていきます。1業務のデジタル化を進めながら、記録の形だけは会社全体で決めておくと、後戻りが減ります。
1〜2ヶ月で進める手順
ここまでの3つの壁を、そのまま日程に落とします。1〜2ヶ月を4つに区切ると、進み具合を確かめながら動けます。
一度に全部を変えようとすると、現場が混乱して失敗しやすくなります。まず少人数の小さな現場で導入し、紙からデジタルへの単純な置き換えから始める段階的な進め方が効果的とされています。いきなり全てを変えようとせず「小さく始めて大きく育てる」進め方が重要だ、というのは調査でも実務でも共通しています。
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業務棚卸し(1〜2週目)紙の帳票や日報、Excel管理をすべて書き出します。誰が・いつ・何に時間を使っているかを見えるようにします。何をデジタル化すべきかは、書き出してみないと見えてこないためです。
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対象を1つ決めて、担当者も決める(2〜3週目)現場の負担が大きい業務を1つだけ選びます。生産日報や受発注など、毎日発生する業務が対象になりやすいです。同時に運用担当者を1人決めます。決めておかないと、導入後に誰も手を入れない状態になります。
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無料または低額で試す(3〜4週目)いきなり契約せず、試す段階を置きます。ここで測るのは、いまその作業に何分かかっているかと、道具を使うと何分になるかです。この数字が無いと、次の投資を判断できません。
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クラウド化して効果を測る(5〜8週目)選んだ業務のクラウドサービスを導入します。土台はベンダーに依頼し、社内は運用を持ちます。作業時間がどれだけ減ったかを数値で確認できたら、次の対象を決めます。
Before/Afterで見る変化
この比較は、1業務のクラウド化(データを自社のパソコンではなく、ネット上のサービスに置くこと)で現場の作業がどう変わるかを示します。
この比較から分かるのは、対象を1つの業務に絞っても、毎日の作業のやり方が確実に変わるということです。生産日報なら集計の手間、受発注なら電話やFAXの往復が減っていきます。
自社に当てはめる場合は、いま最も時間を使っている業務がどちらのタイプに近いかを考えます。日々の記録作業が負担なら生産日報型、取引先とのやり取りが負担なら受発注型が参考になります。
どの壁で止まっているかを見分ける
最初の一手は、いま何で止まっているかによって変わります。次の図で、自社がどこにいるかを確かめてください。
図:どの壁で止まっているかで、最初の一手が変わる
この図が示しているのは、3つの壁それぞれに別の入り口がある、ということです。費用で止まっているなら試す段階から、人で止まっているなら分担から、記録で止まっているなら形をそろえるところからになります。
どれか1つに絞れない場合は、業務棚卸しからやり直すのが安全です。焦って対象を決めると、現場に合わない道具を選んでしまいます。
→ くわしくは「AI格差はもう始まっている」で解説しています。
FAQ
遅れているからではありません。従業員20人以下でこの項目を挙げた会社は、最新の調査で20.9%の4位でした。しかも「必要だと思うが取組めていない」会社に限ると10.9%まで下がります。動きたい会社の多くは、進め方ではなく予算と人で止まっています。
始められます。試す段階は無料から可能で、続けると決めた時点で1人あたり月3,000円ほどの有料プランに移ります。5万〜30万円がかかるのは、1つの作業を任せる次の段階からです。まず時間を測るところまでは、費用をかけずに進められます。
Leach調査・2026年1月公表時点
金額が大きくなる段階で検討すれば十分です。デジタル化・AI導入補助金の通常枠は5万円以上150万円未満の範囲から申請でき、補助率は1/2以内(要件を満たす場合は2/3以内)です。ただし対象は登録されたITツールに限られ、登録されたIT導入支援事業者と申請を進めます。交付決定の通知を受けるまで補助事業は始められず、要件も年度で変わります。最初の1業務を試す段階では、待つより先に動いたほうが早いです。
進められます。システムの土台づくりはベンダーに依頼し、日常の入力と運用だけを社内で担う分担が現実的だとされています。決めるべきなのは、社長が技術を覚えることではなく、運用を持つ担当者を1人選ぶことです。
順番が逆になります。当方が請けた鉄骨加工の案件では、作業項目と工数を登録しただけで、見積にかかる時間が体感でおよそ半分になりました。AIは使っていません。過去の実績が集計できる形で残っていない会社では、AIを足しても集計する材料がありません。記録の形をつくるのが先です。
- 従業員20人以下の会社の課題は、2025年の調査で「予算の確保」28.1%が1位となり、「何から始めてよいかわからない」は20.9%の4位まで下がった。
- DXを「必要だと思うが取組めていない」294社では、進め方が分からないと答えたのは10.9%で、上位は人材と予算だった。
- 費用は3段階で考える。試す段階は無料から始められ、1つの作業を任せる段階で5万〜30万円かかる。
- 人が足りないときは、システムの土台をベンダーに頼み、日々の運用を社内の担当者1人が持つ分担にする。
- 対象業務は1つに絞れるが、記録の形をそろえる工程だけは会社全体で決める必要がある。
デジタル化したい業務を1つ選び、その作業にいま何分かかっているかを1週間ぶん数える。
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