不良の記録をkintoneに移すと、集計は入力した時点で終わる
紙とExcelに残した不良の記録は、誰かが集計するまで全体像が見えません。kintoneに入力すると、工程別・品目別・時期別の集計が入力と同時に更新されます。
- 記録 … 現場のタブレットから、不良の種別を選んで写真を付ける
- 集計 … 工程別・品目別・発生時期別のグラフが自動で更新される
- 分析 … たまったデータをkintone AIに読ませて傾向を出す(スタンダードコース以上)
紙とExcelの不良記録は、その場の共有で終わってしまう
三重県伊勢市でモーター電子機器の巻線加工を手がける有限会社上村工作所も、kintoneを入れる前はExcelで不良を記録していました。当時の様子を、同社はこう振り返っています。
不良が出ると社内で人が集まってその場で共有し、その後エクセルに記録していました
問題はその先にありました。同社は「会社全体のノウハウとして蓄積・共有されているわけではなく、不良の数に変化はありませんでした」と振り返っています。記録は残っていたのに、不良は減らなかったということです。
これはExcelが悪いという話ではありません。誰の承認も要らず、自分の使いやすい形ですぐ作れることがExcelの長所です。ただ、その手軽さのぶん、表は担当者ごと・品目ごとに分かれていきます。
分かれた表は、1枚ずつ見ればよくできています。困るのは、集めて1つにしようとした時点です。項目名も単位も揃っていないので、そこで初めて全体の効率が落ちていたと分かります。
福島県二本松市の製造業T社も、不良を含む製造実績をExcelで管理していました。記録していたのは「誰が、何を、完成数、不良数、不良原因」で、ファイルの構成は「1シート1品目で、シート内に1日から31日までの入力項目がある構成」。1ファイルの品目数は50を超えていました。
この形で「どの工程の、どの不良が多いか」を出すには、50枚のシートを横断して数える必要があります。月末にまとめて作業するしかなく、不良が起きた日には誰も全体を見られません。
記録が無いことが問題なのではありません。記録が集計できる形になっていないことが問題です。
記録をアプリに移した現場で、何が変わったか
上村工作所がkintoneで作ったのは、市販のテンプレートではありません。「不良記録アプリ」と「不良種別マスタ」という2つのアプリを、自社で組み立てています。
不良種別マスタとは、「波形不良」のように、起こりうる不良の名前をあらかじめ登録しておく一覧のことです。記録するときは、そこから選ぶ形にしてあります。
なぜ選択式にするのか。自由に書ける欄にすると「バリ」「ばり」「バリ発生」が混ざり、同じ不良が別々の件数として数えられてしまうからです。選んで入れた記録は、その時点で集計できる形になっています。
入力画面は「現場の従業員さんがタブレットでも入力しやすいよう なるべくシンプルな入力画面にすること」を重視して作られました。写真も貼り付けられるようにしてあり、「その場にいなかった人にも状況が把握しやすい」形にしています。
たまった記録は、2つの形で見られるようにしてあります。不良種別ごとに色分けした月別の不良件数のグラフと、不良種別ごとの件数と担当者を並べたクロス集計表です。クロス集計表とは、縦と横に別々の項目を置いて、交わったところの件数を数える表を指します。
同社はこの仕組みによって「データの蓄積や全体での共有が確実にできるようになった」とし、「不良の原因や起こりやすい状況を把握しやすくなり、会社全体で不良削減へ取り組める環境が整った」と報告しています。
導入の前後で何が入れ替わったのかを、記録の流れに沿って並べます。
この表で入れ替わっているのは、記録の量ではなく「記録した後に何が要るか」です。導入前は記録してから集計するまでに人の作業がはさまりました。導入後はその作業が消え、入力した時点で集計が終わっています。
自社に当てはめるときは、右の列がそのまま手に入ると考えないでください。手に入るのは仕組みだけで、不良の呼び方を決めるのは自社の仕事です。
※ 公開されている事例には、作業時間が何時間から何時間に減ったという数値までは示されていません。自社での効果を知りたい場合は、いまの集計作業にかかっている時間を先に測っておく必要があります。
費用は「1人いくら」ではなく「10人分から」で考える
kintoneの料金は1ユーザーあたりの金額で案内されますが、契約できる最小のユーザー数が決まっています。ここを見落とすと、見積もりが実際の請求額と食い違います。
| コース | 月額(1ユーザー・税抜) | 最小ユーザー数 | 実際に必要な月額(税抜) |
|---|---|---|---|
| ライトコース | 1,000円 | 10ユーザー | 10,000円 |
| スタンダードコース | 1,800円 | 10ユーザー | 18,000円 |
| ワイドコース | 3,000円 | 1,000ユーザー | 大規模向け |
見てほしいのは右端の列です。使う人が5人でも、10ユーザー分の料金がかかります。月1万円が入口で、そこから人数に応じて積み上がる形ではありません。
小さな工場ほど、この下限が効いてきます。逆に言えば、10人までは増やしても料金が変わりません。現場の入力担当を最初から広めに入れておくほうが、後から追加するより無駄がない形です。
年ごとの契約もあります。1ユーザーあたりライトコース12,000円、スタンダードコース21,600円(税抜)で、月額を12か月分払う額と同じです。まとめて払っても安くはなりません。
試すだけなら費用はかかりません。30日間の無料お試しがあり、試用中はユーザー数の制限なくスタンダードコースの機能を使えます。2026年8月時点の料金です。
どちらのコースにするかは、不良記録アプリの中身では決まりません。外のシステムとつなぐか、AIに読ませるかで決まります。
| できること | ライトコース | スタンダードコース |
|---|---|---|
| 外部サービス連携・プラグインなどの拡張機能 | × | ○ |
| kintone AI | × | 契約ユーザー数×500クレジット/月 |
| 作れるアプリの数 | 200個 | 1,000個 |
公式の料金表で差がついているのは、この3点です。不良を記録して集計し、グラフにするところまでは、コースによる差が書かれていません。
ただし、後で出てくるAIの分析や、生産管理システムとの連携を考えているなら、最初からスタンダードコースを選ぶことになります。途中で変えることもできますが、下限が月10,000円から18,000円へ上がる判断なので、先に決めておくほうが揉めません。
テンプレートで始めるか、自分で作るか
サイボウズは製造業向けのサンプルアプリを公開しており、不良の記録には「不具合見える化パック」が用意されています。
このパックは3つのアプリでできています。不良そのものを記録する「不具合報告」、工程の一覧である「工程マスタ」、品目の一覧である「製品情報」です。
不具合報告に記録するとき、製品情報と工程マスタから内容を写し取れるので、「正確に入力することが可能」とされています。上村工作所が不良種別マスタを自作したのと、考え方は同じです。選択肢を先に用意しておき、記録のときは選ぶだけにする、ということです。
公式に案内されているパックの機能は次の4つです。
- 工程で発生した不具合情報を登録すると、自動で集計される
- 工程別・不良別のグラフ化と、集計作業の自動化
- 写真を一緒に登録して、現品の状態を現場から伝えられる
- 不具合情報を工程・品目・時期別に絞り込める
では自作とどちらを選ぶか。決め手になるのは、記録したい項目がもう決まっているかどうかです。
| 比較項目 | 不具合見える化パック | 自分でアプリを作る |
|---|---|---|
| 始めるまで | 追加すればその日から使える | 項目の設計から始める |
| 項目の合い方 | 一般的な製造業を想定した構成 | 自社の工程名・不良名に合わせられる |
| 先に決めること | どの工程・品目を登録するか | 記録する項目と不良の種別 |
この表は「どちらが優れているか」を比べたものではありません。自社の工程名と不良の呼び方が固まっているかどうかで、入口が変わるという話です。
固まっていないうちに自作へ進むと、項目を何度も作り直すことになります。先にパックを入れて、実物を見ながら足りない項目を足すほうが早く進みます。
次の図は、いまの状態からどの入口を選ぶかを整理したものです。
図:不良記録をkintoneに移すときの入口の選び方(コース選びは入口を決めたあとの別の判断)
図の上から順に、いまの自社の状態を選んでいくと入口が決まります。多くの現場は下の枝、つまり不良の呼び方がまだ揃っていない状態から始まります。
その場合はアプリを選ぶより先に、先月の不良を書き出す作業が入ります。この一覧が、そのまま不良種別マスタの中身になります。なお、AIに分析させるかどうかは入口とは別の判断です。次の章のとおり、使うにはスタンダードコース以上が要ります。
kintone AIで、たまった不良データを読ませる
2026年6月14日、kintoneに「kintone AI」が正式に入りました。2025年4月にお試し版「kintone AIラボ」として公開されていたものが、正式な機能になった形です。
用意されているのは6つです。検索AI、アプリ作成AI、プロセス管理設定AI、スレッド要約AI、レコード一覧分析AI、アプリ設定レビューAIが並びます。
不良の分析に効くのはレコード一覧分析AIです。「AIチャットを利用してレコード一覧の内容を分析したり要約したりする機能」で、たまったデータをもとにレポートの作成・分析・次のアクションの示唆までを支援するとされています。
以前は、蓄積したデータをAIに読ませようとすると、外部のAIサービスとつなぐ仕組みを別に作る必要がありました。いまはスタンダードコース以上なら、kintoneの中だけで試せます。
使うにはAIクレジットという単位が要ります。使った機能に応じて減っていく、月ごとの持ち点だと考えてください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 使えるコース | スタンダードコース以上(ライトコースは対象外) |
| 毎月もらえる量 | 契約ユーザー数×500クレジット(スタンダードコース)。全ユーザーで共有する |
| レコード一覧分析AI 1回あたり | 10クレジット |
| 繰り越し | なし。毎月月初めにリセット |
10ユーザーでスタンダードコースを契約した場合、毎月5,000クレジットが入ります。レコード一覧分析AIは1回10クレジットなので、単純計算では会社全体で月500回です。
ただしこのクレジットは、検索AIやスレッド要約AIとも分け合います。どちらも1回10クレジットなので、不良の分析だけで数えず、社内で使う回数を合わせて見ておいてください。
ライトコースではkintone AIを使えません。いまは記録だけで十分でも、いずれ分析まで進むつもりなら、コースを選ぶ時点で決めておく必要があります。
AIに読ませるのは、記録がたまってからで構いません。数件の記録から傾向は出ないので、まずは貯めるほうが先です。目安は3か月ですが、不良の出方によって前後します。工程別や種別ごとに件数を並べて、多い少ないが見えてきたかどうかで判断してください。
導入の手順
いきなり全工程に広げると、入力する人が増えるぶんだけ止まりやすくなります。次の順で進めると、現場の負担を抑えたまま効果を確かめられます。
3を先に決めたくなりますが、1と2を飛ばすと後で作り直しになります。アプリの形は、記録したい項目が決まってからでないと固まりません。
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先月の不良を数えるいまの件数を知らないまま入れると、後で効果が出たかどうかを比べられません。紙の記録でもExcelでも構わないので、件数と種別を数えます。
-
不良の種別を書き出す選択式にするための一覧です。ここで呼び方を1つに決めておかないと、入力後に集計できません。現場で使われている言葉をそのまま拾います。
-
パックを使うか、自作するかを決める前の章の図で選んだ入口です。迷ったら不具合見える化パックを入れ、実物を見てから足りない項目を足します。
-
1つの工程・1つの品目で2週間試す入力しにくい画面は、現場で使われなくなります。まず狭い範囲で回し、入力にかかる時間と、書きにくい項目を洗い出します。
-
グラフを見て、次に手を入れる工程を決める集計は入力と同時に更新されます。件数の多い種別と工程を見て、対策する順番を決めます。
記録が続かない現場でつまずくところ
仕組みを入れただけでは不良は減りません。上村工作所も、記録の仕組みを作ったうえで「会社全体で不良削減へ取り組める環境が整った」と述べています。整ったのは環境であって、成果はその後の取り組みから出ています。
現場で止まりやすいのは、次の3か所です。
| つまずき | 何が起きるか | 先に決めておくこと |
|---|---|---|
| 入力項目が多い | 現場が入力しなくなり、記録が虫食いになる | 現場が手で入れるのは種別・工程・品目・写真の4つに絞る |
| 不良の名前が自由記述 | 表記が分かれて集計できない | 種別マスタから選ぶ形にする |
| グラフを誰も見ない | 記録だけがたまり、対策に結びつかない | 月に1回、誰がグラフを見るかを決める |
日付を手入力の項目に入れていないのは、kintoneが記録を保存した日時を自動で持つためです。この作成日時は後から変えられず、フォームに置いていなくても集計に使えるので、時期別のグラフはそのまま作れます。ただし後日まとめて入力する運用にすると、保存した日と不良が出た日がずれます。その場合だけ、発生日の欄を1つ足してください。
3つとも、アプリの機能ではなく決め方の問題です。逆に言えば、この3つを先に決めておけば、テンプレートのままでも回り始めます。
進める担当は、情報システムの担当者でなくて構いません。kintoneのアプリはプログラムを書かずに設定できるので、不良の呼び方を決められる品質管理の担当者のほうが向いています。社長が決めるのは、どの工程から試すかと、誰を担当にするかの2つです。
kintoneに移して最初に手に入るのは、不良が減った状態ではありません。どの工程で何が起きているかを、全員が同じ画面で見られる状態です。そこから先の改善は人の仕事ですが、材料が揃っていれば議論の速さが変わります。
FAQ
A. 公式の料金表では、記録・集計・グラフの部分にコースの差が書かれていません。差がついているのは、外部サービス連携やプラグインなどの拡張機能、kintone AI、作れるアプリの数(200個と1,000個)の3点です。ただしAIに分析させたい場合は、スタンダードコース以上が必要になります。契約前に、自社で使いたい機能を30日間の無料お試しで確かめておくと確実です。
A. 契約はできますが、料金は10ユーザー分かかります。ライトコースで月10,000円、スタンダードコースで月18,000円が下限です(いずれも税抜・2026年8月時点)。人数が下限に届かない場合でも、10人までは追加の料金なしで使えるので、現場の入力担当を広めに入れておくほうが無駄がありません。
A. 記録がたまるまでは分かりません。不具合見える化パックは、工程別・品目別・時期別の集計を自動化する仕組みです。何が多いかは記録から出ますが、なぜ起きたかは現場で確かめる必要があります。目安として3か月ほど貯めると、件数の多い工程が見えてきます。不良の出方によって前後するので、期間より「工程ごとの多い少ないが見えたか」で判断してください。
A. 公開されている事例には、削減率や時間の数値までは示されていません。上村工作所の事例で確認できるのは、データの蓄積と共有が確実にできるようになり、不良の原因や起こりやすい状況を把握しやすくなったところまでです。自社での効果を測るなら、導入前の不良件数と集計作業の時間を先に記録しておいてください。
A. 先月の不良を数え、種別を書き出すところからです。この一覧がそのまま不良種別マスタの中身になり、アプリを選ぶ判断材料にもなります。30日間の無料お試しがあるので、書き出した種別を実際に入れてみて、現場のタブレットで入力できるかを確かめるところまでを最初の範囲にすると進めやすくなります。
- kintoneに不良を記録すると、工程別・品目別・時期別の集計が入力と同時に更新される
- 不良の名前は自由記述にせず、あらかじめ登録した一覧から選ぶ形にしないと集計できない
- 料金は1ユーザー1,000円からだが最小契約が10ユーザーのため、実際の下限は月10,000円(税抜)
- 2026年6月に正式提供が始まったkintone AIのレコード一覧分析AIは、スタンダードコース以上でないと使えない
- 公開されている事例に削減時間の数値は示されていないため、導入前の件数と作業時間は自社で測っておく
先月の不良を紙とExcelから拾い、不良の種別が何種類あるかを数える
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