AIツールが定着しない理由はITツールと同じ|派遣業の例

AIツールが定着しない理由はITと同じ|派遣業の例 AI活用の記事
結論

AIツールが定着しない理由の上位は、AI以前のITツールと同じ。定着のポイントは、今の仕組みを残したまま、重複作業の手間を省くこと

導入後の困りごとを中小企業に聞いた調査で、上位3つがAIとITで同じでした(中小機構調べ)。当方の例では、それぞれに次の手を打ちました。

  • ランニングコストが高い … 新しい月額サービスを増やさず、今使っている道具の間をつなぐ
  • 運用担当者の負荷が重い … 作ったあとのトラブルについて相談できる窓口を決めておく
  • 従業員による活用が進まない … 今の画面を変えずに、重複作業を省く
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最初の一歩
重複作業がどこにあるかを、1週間ぶん書き出す

AIツールとITツールで、定着しない理由は違うのか?

上位の理由はほとんど同じです。中小企業基盤整備機構(中小機構)が2026年3月にまとめた調査で、AIとITのそれぞれについて「導入後の運用課題」を聞いた結果が次の表です。

導入後の運用課題 AI IT
ランニングコストが高い 44.0% 47.7%
運用担当者の負荷が重い 29.1% 33.1%
従業員による活用が進まない 28.9% 28.8%

※中小機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2025年11〜12月・有効回答1,668社)。回答はAIが1,587社、ITが1,630社で、導入の予定がない企業も含みます。

3つとも順番が同じで、「従業員による活用が進まない」はAIとITでほぼ同じ割合でした。報告書自身も、ITと比べて上位の項目に違いは見られなかったと書いています。

AIだから定着しないのではなく、ITツールで起きていたことがAIでも起きている、と読めます。

同じ報告書の自由回答には「利用者のスキルによるばらつき」「設定の属人化」「継続更新に対応できる人材の不在」が並びました。どれもAI以前のシステムで耳にしてきた言葉です。

AIならではの壁もあります。帝国データバンクは2026年3月、生成AIの懸念を1万社余りに聞きました。1位は「情報の正確性」(50.4%)で、「情報漏洩のリスク」も33.5%ありました。

当方が実際に突き当たったのは後者で、「個人情報の入ったExcelを、AIに渡せないときは?」のところで触れます。

過去にITツールで起きた困りごとは、AIツールの定着を考える手がかりにできます。

派遣会社で、以前の自動化が使われなくなったのはなぜか?

当方の見立てでは、二重管理・使い勝手の悪さ・入れたあとの支えの不足が重なっていました。当方が人材派遣業の会社の仕組みづくりを手伝ったのは、2021〜2022年のことです。AIがまだ仕事で広く使われる前のことでした。

その会社は、登録者の名簿や予定表を2つの道具で別々に管理していました。kintone(クラウド上で表やアプリを作るサービス)と、Access(パソコンで使うデータベースのソフト)です。

  • 入力 … 同じ情報を、kintoneとAccessのそれぞれに手で入れる
  • メール … メールで届いた内容を、手で打ち直す
  • 表の作成と送信 … 集計表や送る書類を、手作業で作って送る
  • 以前の自動化 … Accessである程度の自動化が入っていた

こうした重複作業(同じ情報を手で入れ直したり、打ち直したりする作業)が、仕事の随所にありました。

派遣会社で、以前の自動化が使われなくなったのはなぜか?

Accessの自動化は、入れた当初は使われていました。ところが当方が関わった時点では、使われなくなったものが多くありました。

当方の見立てでは、kintoneとの二重管理や使い勝手の悪さに加え、入れたあとの支えが足りなかったことも響いています。

二重管理になる道具は、使わなくても今日の仕事が回ってしまいます。kintoneに手で入れておけば済むなら、手間が増える側の道具は忙しい日から後回しになります。

ほかの会社でも同じ声が出ています。商工中金は2023年1月、取引先の中小企業4,800社から答えを得ました。運用が難しかった理由として「各種システム同士の連携が不十分」「紙媒体をなくすことができず、二重の管理になる」が挙がっています。

使われていない道具を見つけたとき、使い方の説明から始めると、重複作業はそのまま残ります。先にどこで同じ情報を入れ直しているかを見ます。

→ くわしくは「派遣の稼働報告をLINE+Googleフォームで自動集計」で解説しています。

作り直した仕組みは、なぜ4年たった今も使われているのか?

当方は、kintoneとAccessを置き換えずに両方残しました。片方にしか無いデータがあるなど、残す理由があったためです。そのうえで、2つの間で行うデータのやり取りを自動にしました。

自動にするのに使ったのはExcel・スプレッドシート・Pythonで、月額のかかる新しいサービスは増やしていません。

同じ情報の入力
Before

kintoneとAccessのそれぞれに手で入れる
➜
After

2つの間のやり取りを自動にする(どちらも残す)
表の作成と送信
Before

手作業で作って送る
➜
After

Excel・スプレッドシート・Pythonで自動にする
使われ方
Before

以前のAccessの自動化は多くが使われなくなっていた
➜
After

2022年に作り終えた仕組みが、4年たった今も使われている

作った仕組みは5つです。

  • 売上の集計
  • どの派遣先にどの登録者を送るかを決める仕組み
  • 登録者からの交通費の申請
  • 給与明細の自動送信
  • 請求書の発行

どれも毎月くり返す仕事で、個人情報や取引の情報を含むため、実物はお見せできません。

進め方としては、当方の代表がその会社に直接入って現場の話を聞き、当方の開発担当者が離れた場所から作っていきました。代表の判断で、いくつかは並行して作っています。

今でも数か月に一度、システムのトラブルの連絡があり、その都度当方が直しています。作って渡して終わりにせず、困ったときに連絡できる先があることも、使われ続けている理由の1つだと考えています。

今の道具を手放さずに間をつなぐと、現場は今までの画面のまま仕事を続けられます。

当方がそろえきれなかったもの:システム仕様書

うまくいかなかった点もあります。現場の人が使う作業手順書は、当方の代表が作っていました。一方で、システム仕様書(仕組みが何を・どの順で・どのデータを使って処理するかを書いた文書。以下、仕様書)は、5つの仕組みの全部はそろえられていません。

一部の仕組みにだけ作ったものと、導入後のトラブルに対応したついでに書いたものが残るだけです。全体を通した仕様書が無いことを、当方は問題だと考えています。

仕様書がそろっていないと、作った人以外が直そうとしたとき、プログラムの中身を読み解くところから始めなければなりません。トラブルの連絡が来るたびに当方が直せている間は回りますが、それは作った人がいる前提の話です。

反対に、仕様書があれば、それをAIに読ませるだけで仕組みの全体を伝えられます。当方の開発担当者は、AIを使った改修がそのぶん進めやすくなると見ています。

当方がそろえきれなかったもの:システム仕様書

ほかの会社でも、資料の不足でツールが止まった例があります。

  • 商工中金の調査(2023年1月):「導入しても、運用するための資料が揃わなかったため、廃止した。」(金属製品製造の回答)
  • 中小機構の調査(2026年3月):自由回答に「設定の属人化」(設定の中身を特定の人しか知らない状態)

仕様書の下書きなら、いまはAIに任せられます。できあがったプログラムをAIに読ませて下書きを作らせ、作った本人が読んで直せば、白紙から書くより手間はずっと減ります。

AIで作れば、何が変わり何が変わらないのか?

変わるのは、作る時間です。当時、当方の開発担当者がこの5つの仕組みを手作業で作ったときは、1年近くかかりました。

項目 当時(2021〜2022年) 今なら(当方の見立て)
試作 — 1週間程度
完成まで 1年近く 1か月くらい
使った道具 Excel・スプレッドシート・Python(手作業で開発) 同じ道具を、AIエージェントに書かせる

今ならAIエージェント(指示を受けて、プログラムを書いて動かすところまで進めるAI)を使えます。当方の開発担当者の見立てでは、試作なら1週間程度です。

仕様のすり合わせやテストでのやり直しを含めると、完成までは1か月くらいかかります。実測ではなく、見立ての数字です。

変わらないのは、定着の条件です。作る時間がいくら短くなっても、重複作業が残れば道具は後回しになり、困ったときの連絡先が無ければ止まります。作るのが速くなるほど、作る前の決めごとと作ったあとの面倒見で差がつくと当方は考えています。

役割は、次のように分けます。

任せる先 この会社の例で任せること
プログラム kintoneとAccessの間のやり取り、集計、明細と請求書を毎月同じ形で作って送る
AI そのプログラムを書く、仕様書の下書きを作る
人 どちらの表を正しい元にするかを決める、給与と請求の金額を最後に確かめる

集計や送信のように毎回同じ結果が要る作業はプログラムに任せ、AIにはそのプログラムを書かせます。給与や請求のように間違いが許されない数字は、最後に人が確かめます。

個人情報の入ったExcelを、AIに渡せないときは?

当方では、個人情報を見本の値に置き換えてから渡し、直したあとに元へ戻す形をとっています。きっかけは、ある会社からExcelのマクロ(VBAという言語で書く、Excelの中で動くプログラム)の改修を頼まれたことでした。

ファイルには氏名や住所、電話番号が入っていて、当方の開発担当者は「このままではClaude Code(AIに作業を任せる道具)に読ませられない」と思いました。

データを消して渡す手もありますが、仕組みの全体がAIに伝わりにくくなり、シートが多いと消す作業そのものに手間がかかります。このためらいが、AIが仕事に根づかない壁の1つになっていると当方は見ています。

中小機構の調査でも、AIを使っている会社ほど、導入の妨げに情報漏えいの懸念を挙げていました。

AIの導入状況 回答数 「セキュリティ・情報漏洩の懸念」を挙げた割合
全社で導入している 57社 29.8%
一部の業務で導入している 273社 22.0%
導入の予定はない 986社 14.1%

※中小機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」の、AI導入の妨げを聞いた設問(複数回答)。全社で導入した企業は57社と少ないので、参考として見てください。

実際の仕事にAIを使い始めると、渡せない情報に突き当たる、と読めます。

ただ同じ調査を見ると、IT導入の妨げとしても21.5%が同じ懸念を挙げており、懸念そのものはAI以前からあります。AIになって増えたのは、ファイルの中身を外のサービスへ渡す場面です。

そこで当方の開発担当者は、次の順で動く仕組みを作りました。

  1. 置き換える:プログラムが、見出し(氏名・住所・電話など)と決まった書き方から個人情報を見分けます。それを「氏名0001」「090-0000-0001」のように、桁や区切りを保った見本の値に置き換えます。元の値との対応表は、手元のパソコンにだけ残します
  2. 検査する:置き換えたファイルに個人情報が残っていないかをプログラムが調べ、人が目で確かめます
  3. AIに直させる:置き換えたファイルだけをAIに渡し、マクロを直させます
  4. 元に戻す:直したファイルを、対応表を使って元の値に戻します

ここでも役割を分けています。個人情報を見分けて置き換えるのはプログラムの役目で、AIは置き換えたあとのファイルを直すだけです。

この仕組みは作ったばかりで、まだ実務では使っていません。見本のファイルで「置き換え→検査→元に戻す」を通し、元と一致することを確かめた段階です。見出しの無い場所に書かれた氏名や、マクロのコードに直接書かれた値、メモや図形の中の文字は置き換えないので、渡す前の確認は省けません。

→ くわしくは「Copilotに学習させない条件|職場アカウントで守る」で解説しています。

AIツールを定着させる手順(今ならこうする)

2026年版の中小企業白書には、ITツールの効果が出た事業者に有効だった取組を聞いた結果が載っています。

1位は「現場からの意見収集」(50.3%)、2位は「段階的な導入」(36.1%)でした。効果が出た事業者だけに聞いた結果なので、出なかった会社と比べた数字ではありません。

1業務で始めても、そこで止めると一部の人だけが使う状態で終わります。最初から、2つ目の業務へ広げる前提で物差しと仕様書を残しておきます。

当方が今、同じ会社をお手伝いするなら、次の順で進めます。この会社で実際に通った道ではなく、振り返って組み直した順番です。

  1. 重複作業がどこにあるかを書き出す
    1週間ぶん、どの情報をどの道具やメールから何回入れ直したかを書き出します。重なりが見えないまま道具を足すと、入力がもう1つ増えます。
  2. 正しい元にする表を決め、今の道具は残す
    kintoneとAccessのように、片方にしか無いデータがあることは珍しくありません。全部を新しい道具に移すより、残してつなぐほうが現場の画面が変わらずに済みます。
  3. 最初の1業務を選ぶ
    毎日ある・時間がかかる・人が結果を確かめられる、の3つがそろう業務から始めます。人数を絞るためではなく、効果を測れる単位にするためです。
  4. 導入前に1か月、物差しで測る
    入力の回数、見比べにかかる時間、転記ミスの件数などを、導入前の1か月で数えます。測っておかないと、あとで良くなったかどうかを言えません。
  5. 作ったら、仕様書をAIに下書きさせて残す
    できあがったプログラムをAIに読ませて下書きを作り、作った人が直します。作った人以外も仕組みをつかみやすくし、AIを使った改修を進めやすくするためです。
  6. 使い始める前に、困ったときの窓口を決めて伝える
    困ったときに誰へ相談するかを、使う人全員が分かる形にしておきます。連絡先が分からないと、止まったところで道具が使われなくなります。
  7. 3か月後に同じ物差しで測る
    導入前と同じ物差しで測り直します。

FAQ

全員に一度にツールを配るのは、やめたほうがいいですか?

配る範囲よりも、配る前に「どの入力が減るか」が決まっているかのほうが大事です。AIを全社で入れた企業と一部の業務で入れた企業とで、「従業員による活用が進まない」の割合は40.4%と36.0%でした。大きな差はありません。全社で入れた企業は57社と少ないので、参考程度に見てください。

中小機構の調査

研修をすれば、ツールは定着しますか?

研修に取り組んだ会社のほうが、効果が出なかった割合は低くなっています。2026年版の中小企業白書では「想定した効果が得られなかった」割合が、研修ありとなしでITが8.7%対19.1%、AIが8.6%対16.1%でした。ただ当方の例では、使い方の前に二重管理がありました。研修の前に、重複作業が無いかを確かめます。

作ったあとの面倒は、誰が見るのですか?

当方が作った仕組みは、当方が保守を受け持ちます。当方の保守は月1〜3万円(税抜・2026年10月時点)です。立ち上げ期は月3万円で、導入から半年程度が目安です。運用が安定して問い合わせが減れば、様子を見て月2万円、月1万円へ切り替えます(必ず半年で下がるわけではありません)。社内に見る人がいるなら、その人に仕様書を渡して引き継ぎます。

まとめ

  • AIツールが定着しない理由の上位は、AI以前のITツールと同じで、中小機構の調査では導入後の運用課題の上位3つがAIとITで同じ順だった
  • 人材派遣業の会社では、当方の見立てで、kintoneとの二重管理や使い勝手の悪さなどから、Accessの自動化の多くが使われなくなっていた。両方を残して間をつないだ仕組みは、4年たった今も使われている
  • 道具を足す前に重複作業がどこにあるかを書き出し、今の道具は置き換えずにつなぐと、現場の画面を変えずに済む
  • AIで作る時間は短くなるが、作る前に物差しを決めることと、作ったあとの窓口と仕様書を用意することは変わらない
  • 仕様書はAIに下書きさせ、作った人が直して残すと、作った人以外も仕組みをつかみやすくなり、AIを使った改修も進めやすくなる

次の一歩重複作業がどこにあるかを、1週間ぶん書き出す

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大平

執筆・監修

大平 — ジッソウLAB代表

中小企業の業務改善・メルカリ物販、中古PC販売の実務経験を活かし、現場目線でAI活用を検証・発信

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